米国にも突き刺さる「トランプ関税」 低所得者層を直撃、国民の3分の2が景気後退を予測する現状で痛みに耐えられるのか

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割を食うのはトランプ支持者

 JPモルガンは3日、トランプ政権の関税引き上げは累計約22%に上り、米国で1968年以来最大の増税に相当するとの分析を示した。

 前述のタックス・ファウンデーションは、米国民が商品に費やす額が世代平均で年間2100ドル(約30万円)増加すると試算した。

 米エール大学は、これまで打ち出された関税政策全体の影響で米消費者物価は2.3%上昇し、家計の購買力は3800ドル(約55万円)失われるとした。その上で、関税は低所得者ほど負担が大きい逆進的な税金だと指摘する。

 米アトランタ連邦銀行の最近の賃金統計でも、賃金上昇率が最も低いのは低所得層であることがわかった。関税政策で最も割を食うのは、皮肉にもトランプ氏の再選を熱烈に支持した人々なのだ。

景気後退に陥ると考える米国人は約3分の2

 相互関税の発表の前から米国民の消費に対する信頼感は悪化していた。

 米民間調査機関コンファレンスボード(CB)が3月25日に発表した3月の消費者信頼感指数は前月から7.2ポイント低下し92.9となった。4年ぶりの低水準だ。

 所得や労働環境の短期的な見通しを示す期待指数も9.6ポイント低下して65.2と、12年ぶりの低水準となった。加えて、今後1年以内に米国がリセッション(景気後退)に陥ると考える米国人は約3分の2に上るとした。

 気がかりなのは、米国民の財布の紐がかたくなる兆しが出ていることだ。

 ブルームバーグによれば、米国では2月の航空券とホテルへの支出額が前年に比べてそれぞれ10%と6%減少した。レストランの支出も3.5%減少した。

米国民の「貯蓄意欲」は世界経済に打撃

 旺盛な消費で知られる米国の家計が貯蓄意欲を強めていることも気になるところだ。

 米商務省の統計では、米国の家計の3月の貯蓄率(可処分所得に占める貯蓄額の割合)が4.6%に上昇したことが明らかになった。米国の貯蓄率は2~3%台が標準だが、トランプ氏の政権運営の不透明性が災いして今年1月に4.3%に急上昇し、その後も上昇傾向が続いている。

 相互関税の発表に端を発する株価の下落が長引けば、逆資産効果(所有資産の価値が下落したことを受けて消費を控える傾向が強まること)による消費の下振れ圧力が強まり、米国民の貯蓄意欲が一層高まる可能性は十分にある。

 米国の国内総生産(GDP)で7割を占める個人消費は、米国経済の牽引役であると同時に、世界経済にとっても欠かせない需要だ。米国民のあいだに貯蓄意欲が高まることで、世界経済が深刻な打撃を被らないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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