憂鬱な50代に薦めたいヒューマンドラマ 内野聖陽主演「ゴールドサンセット」が与えてくれる“心強さ”

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 今年に入って急に「死」を意識するようになった。父の入院や母の認知症進行、親が緩慢に朽ちてゆく様を受け止めつつ、自分も人生の晩秋というか、たそがれ時に入ったなと肌で感じている。たそがれとる場合じゃねえ、働けって話だが、50代の憂鬱(ゆううつ)を体感。イライラでも悶々でもない。ひたひたと深々と、って感じだ。そんなたそがれびとに薦めたい、滋味あふれる作品が内野聖陽主演「ゴールドサンセット」だ。

 内野はボサボサの白髪にらくだシャツ、謎の男・阿久津を演じる。アパートの一室で、怒鳴ったり嘆いたりと奇声を発する。阿久津には何やらざんげの念があり、時折幻覚で見える女性(三浦透子)に心が乱れる様子。

 隣の部屋に引っ越してきたのが、シングルマザー(安藤玉恵)と中学生の琴音(毎田暖乃)。琴音はもう一人の主役だ。阿久津の叫びを聞き、興味をもつ琴音。阿久津は役者で、奇声は芝居のセリフだったと知る。

 琴音には友人(古川凛)ができたものの、その子がいじめられていることを知り、つい避けてしまう。友人はいじめを苦に自死を選び、自責の念に駆られる琴音。教師にいじめを報告するも無視され、今度は自分がいじめの標的に。絶望した琴音を、阿久津は稽古場へ連れて行く。この市民劇団「トーラスシアター」の役者は55歳以上限定で、有名な演出家・小巻沢梨子(小林聡美)が主宰。琴音は稽古場へ通って見学するようになる、というのが第1話。偏屈な男と悩める中学生の心の交流だけならよくある話だが、それだけではなかった。

 第2話からはトーラスシアターに関わる人の半生を描く。シェイクスピア「リア王」、チェーホフ「三人姉妹」やオスカー・ワイルド「サロメ」、エドモン・ロスタン「シラノ・ド・ベルジュラック」などの戯曲を絡め、たそがれびとの諦観や覚悟が映し出されていくので、体を乗り出して見入っちゃった。名作には無知だが、中高年のリアルな半生に重ねていくと、スッと染み込んでくるのよ。

 恋愛にも結婚にも意味も価値もないと気付いた女の生きざまを心地よく見せてくれたのが第2話。劇団に応募した叔母(風吹ジュン)と、突然リストラされてマンション購入(と、不動産屋への恋心)を諦めた姪(坂井真紀)の話だ。失業と失恋を一気に経験したものの、達観した叔母の生き方や言葉に救われる姪。たそがれ時に心が軽くなっていく様を坂井が名演。「解脱」の言葉すら浮かぶラストシーンがすごくよかった。

 第3話では、昔の自分にパワハラをした男(益岡徹)と遭遇した女性(和久井映見)が主軸。劇団のワークショップで男の矮小(わいしょう)さを確認し、長年の苦悩から解放される様が描かれた。第4話は、喪失と恍惚の元教師(津嘉山正種)を支えつつも、逆に癒やされるゲイカップルの話。第2話で登場した不動産屋(中島裕翔)と、劇団スタッフ(今井隆文)が包み込む優しさを体現。琴音は劇団の大人と接することで、生きる意味を見いだし始める。

 たそがれびとの来し方や現在地が自分の足元と地続きの感覚。共に落陽を眺めているような心強さを覚えた。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年4月3日号掲載

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