作家・関かおるが「まじかよ!」と度肝を抜かれたアメリカでの高校時代の思い出 「教師の犬が亡くなると、2代目が現れ…」

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毎日動物を見かけたボストン郊外での高校生活

 2024年『みずもかえでも』で、第15回小説野性時代新人賞を受賞し、同作でデビューした関かおるさん。アメリカで過ごした高校生活は、音楽科の教師が授業に連れてくるゴールデンレトリバーのサンディは大切な心のよりどころだったという。だけどある時から、その姿を見なくなって……。

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 高校時代、動物をよく見かけた。私が通っていた学校はアメリカのボストン郊外にあり、小さな丘を囲むようにして建っている。野生のリスやウサギ、隣家の柵の中の大きなクジャク、寮の先生が飼っている犬や猫、そのどれかをかならず目にする毎日だった。

 その中でも印象にのこっている犬がいる。名前はサンディ。ゴールデンレトリバーの、とてもしずかな、やさしいおばあちゃん犬だった。

 サンディは、音楽科で音楽理論や作曲を教えているミスター・ブラウンの犬だ。ミスター・ブラウンは寮監をしていない、通いの先生で、たまにサンディを学校に連れてきた。頻度はそんなに高くなく、会うのは3週間に1回くらいだった。

教室にサンディがいると、なにかをゆるされたような気持ちに

 中学2年生まで日本で過ごし、英語もへたくそだった私は、教室にサンディがいると、なにかをゆるされたような気持ちになった。もしかしたら学校って、自分が思っているより寛容な場所なのかもしれない。黒板の下に犬がいる。みんなで犬をかまう。教室の窓の外には、サンディが走り回れる丘がある。狭い教室と広い丘とが接続され、世界がぼんやりと広がって見えた。

 小さい頃、公園で見知らぬ犬に追いかけ回されたことから、私はつい大型犬にビビってしまうのだが、サンディは本当におとなしかったのでなでることができた。淡い金色の毛はつやつやして、手のひらにあたたかくなじんだ。

 しかし、ある時からミスター・ブラウンがサンディを連れてこなくなった。体調が悪いのだという。冬休みが明けてすぐくらいだったか、ミスター・ブラウンはサンディが亡くなったことを告げた。その報告は存外あっさりしていて、ミスター・ブラウン本人も生徒たちも、悲しみに沈むようなことはなかった。17歳前後だった私たちは、たまに会う犬よりもいろんなことで頭がいっぱいで、「残念だね」「悲しいね」と表面上は言いあったけれど、サンディのことはすぐに忘れた。

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