センバツでの屈辱をバネにした「吉田正尚」、“新庄チルドレン”の出世頭は控え投手ながら大奮闘…今に繋がる人気選手たちの“春”を振り返る

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控え投手が「まさかの完封」

 就任4年目の栄冠を目指す日本ハム・新庄剛志監督がV実現のキーマンと絶大な信頼を寄せるのが、“新庄チルドレン”の出世頭で、エースの伊藤大海だ。

 伊藤は駒大苫小牧2年時の2014年の第86回大会に背番号15の控え投手としてセンバツに出場している。

 圧巻だったのは、1回戦の創成館戦。好調を買われ、先発に抜擢された伊藤は初回、先頭の原口史也にいきなり左翼線二塁打を浴びるが、「あれで気が楽になった」と大舞台の緊張から解き放たれる。肩の力が抜け、本来のテンポの良い投球を取り戻すと、後続3人を三振、二ゴロ、三振に打ち取り、ピンチを逃れる。

 その後も5回まで毎回の7三振を奪い、2回から8回まで許した走者は四球と内野安打の2人だけ。3回には自らの三塁打で先制点を呼び込み、投打にわたって躍動する。

 そして、3対0の9回、憧れの先輩OB・田中将大(現・巨人)が2005年春の甲子園デビュー戦で1失点完投勝利を記録したことを意識して、1死後、右前安打を許したが、次打者を三ゴロ併殺に仕留め、見事“田中超え”の3安打完封で甲子園デビュー戦を飾った。

 継投を考えていた佐々木孝介監督も「まさか完封するとは思わなかった」と大喜び。だが、伊藤は「大事な初回の先頭打者に打たれたので、内容は60点。まだまだです」と謙虚そのものだった。

 2回戦の履正社戦では、6対2とリードの3回途中から3番手としてリリーフも、6対5の9回にエラーをきっかけに逆転サヨナラ負け。「(履正社は)今まで経験したことのない勢いのある打線だった」と上には上があることを思い知らされた。

 結果的にこれが最初で最後の甲子園になったが、“聖地”での完封デビューがその後の野球人生を切り拓く大きな第一歩になったと言えるだろう。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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