「ヘルペス感染者の認知症発症リスクは2.6倍」 アルツハイマー認知症の原因「ヘルペスウイルス説」を検証
期待したほど効果を上げていない新薬
それにしても80歳を超えるとなぜアルツハイマー認知症の人が激増するのだろう。実は、そこにヘルペスウイルスが関係しているなら、高齢期になるとアルツハイマー病が急増するのもうなずけるのである。
人間の臓器は80年90年と使えば耐用年数が切れて機能は低下する。これが老化だ。免疫機能もこれと同じで、老いとともに低下する。免疫機能が低下すれば、当然ながら脳内に潜伏したヘルペスウイルスが活動し始める。その結果としてアルツハイマー病が急増するのではないか――。もちろん、これは私の想像に過ぎない。ただいえるのは、「ヘルペスウイルス原因説」は「アミロイドカスケード仮説」よりもはるかに説得力があるということだ。
認知症の新薬が次々と登場しているが、薬価が高額な割には、投与しても認知機能の低下を30%ほど遅らせる(症状の進行を7カ月半遅らせる)ぐらいで、期待したほど効果を上げていない。
それに比べ、先のアメリカの治験では、抗ウイルス薬の服用で78週(1年半)後も認知機能が低下しなかったと報告されている。さらに抗ウイルス薬やワクチンのメリットは、認知症の新薬に比べてはるかに安価(後発品バラシクロビル錠500mgで76.7円)であることだ。それに加え、帯状疱疹ワクチンなら、たとえアルツハイマー認知症の予防効果が得られなかったとしても、強い痛みを伴う帯状疱疹の症状を抑えてくれる、あるいは発症を防げるというメリットがある。まったくの無駄でないなら、やってみる価値があるだろう。
二つの選択肢
帯状疱疹ワクチンには生ワクチン(ビケン)と不活化ワクチン(シングリックス)の2種類がある。前者は1回の接種(約8千円)だが、シングリックスは2回の接種(計約4万円)である。現在は任意接種だが、4月からは国の定期接種になるので、対象年齢ならば負担が大幅に軽減されるはずだ。
どちらを選ぶかは自由だが、シングリックスはビケンに比べて接種後の痛みや倦怠感はかなり強いものの予防効果が高く、持続する期間も長い。松下氏も「シングリックスの方がより強力な免疫が得られます」と言う。通常ならシングリックスを選ぶのが妥当なのだが、私は21年に新型コロナワクチンの接種で最高血圧が70を割るほど低下し、3週間ほど立ち上がれない経験をした。アナフィラキシー・ショックだそうだ。シングリックスは新型コロナワクチンのようなmRNAワクチンではないが、ウイルスの遺伝子を組み替えて作られたことが気になり、あらためてメーカーの報告書や論文などを調べてみた。いずれのデータも重篤な副反応を引き起こす割合は問題になるほどの数字ではないが、例えば昨年5月にシングリックスのメーカーから提出された「医薬品リスク管理計画書」はアナフィラキシー・ショックを挙げている。もちろん許容できる範囲の発生率だが、新型コロナワクチンで重い副反応が出たことを考えると決断ができない。そこで主治医に相談したのだが、結論からいうと、ワクチンである以上アナフィラキシーのリスクはどちらにもあるとはいえ、「自分で安心できる方を選ぶのが賢明」とのことで、私は生ワクチンのビケンを選ぶことにした。
帯状疱疹ワクチンが定期接種になって接種する人が増えれば、やがて認知症との関連がより明らかになっていくだろう。
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