「渡辺恒雄」没して、プロ野球「16球団」構想は進むのか 「王貞治会長」は推進も、現実には大きな壁が

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 昨年12月に死去した、渡辺恒雄・元巨人オーナー(享年98)。良い意味でも悪い意味でも“球界のドン”であった渡辺氏の死によって、今後、球界も様々な変革が予想される。その一つとして挙げられるのが、プロ野球16球団構想だ。20年ほども議論されてきたテーマだが、渡辺元オーナーは後ろ向きだったとされる。ドンの不在で、その行方はどうなるのか。

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 プロ野球16球団構想は、現在12球団あるプロ野球チームを16球団に拡大(エクスパンション)しようというもの。全国にある球団の4つの空白地域にプロ野球チームを作り、野球市場の拡大と地域活性化を図るというのが、その基本的考え方だ。

 2000年代初頭から、スポーツジャーナリストの二宮清純氏や、労組プロ野球選手会の会長経験者で、ヤクルト・スワローズの古田敦也氏などが球界の発展を図ろうと、提言を続けてきた。

 大きく話題になったのは、2014年。自民党の日本経済再生本部が公表した政策提言「日本再生ビジョン」にこう記されたからである。

<わが国のプロ野球チームは55年前から12球団のままであるが、米国では、55年前には16球団であったところ、地方都市においてチームが順次誕生し、現在は30球団までになり、それぞれの球団運営も地域に根差した事業として成功しているという。地域に本拠を置くプロスポーツチームの隆盛は、地域意識を高揚させ、さらに大きな経済効果も生み出し得る。米国において地方都市に球団が次々に創設された結果、プロ野球市場が拡大し、結果として地域活性化にも寄与してきている>

<わが国のプロ野球において、静岡県、北信越、四国、沖縄県などに球団の空白地域が残っており、プロ野球市場の拡大とそれを通じた地域活性化の可能性がある>

 この4地域には、HARD OFF ECOスタジアム新潟、坊っちゃんスタジアム(愛媛県松山市)など、NPB試合の開催経験のある球場もある。

石破首相も「検討する」

 2016年には、国会でこの構想について質問が出たことがあった。その際、地方創生担当相として答弁に立ち、「政府として検討する」と述べたのは、現・石破茂首相である。

 また、2018年にZOZOTOWNの運営会社「スタートトゥデイ」の社長・前澤友作氏(当時)が「球団を持ちたい」と言って、話題になったことも。

 そして何より大きな議論を呼んだのは、2020年だ。1月、福岡ソフトバンクホークスの王貞治会長がTNCテレビ西日本の番組「CUBE」のインタビューで、「野球界のためには、(プロ野球チームは)出来るものなら16、あと4つチームが誕生してほしい」「チームは多い方がいい。選手たちにとっても、受け皿があった方が絶対にいい。子供たちに夢を与えるには環境整備が大事」と発言したのである。

 スポーツジャーナリストの吉見健明氏が言う。

「12球団の中から声が上がったこと、しかも球界のレジェンド、国民栄誉賞受賞者で影響力絶大な王さんから上がったことに衝撃が走りました。王さんは常々、小中学生などの野球人口の減少を危惧していたようです。球団を増やすことで、そうした層を野球に取り戻したいと思ったのでしょう」

 後に王氏は『週刊ポスト』でこの発言について聞かれ、推進するもうひとつの理由を挙げていた。

<12球団を2リーグで割ると6球団。AクラスとBクラスで割ると3球団になり、今のCS(クライマックス・シリーズ)のように中途半端な戦いになる。16球団なら、あれこれ言わずに済むでしょう>

 CSに関しては、シーズン143試合を戦って2位や3位に終わったチームが、優勝チームを最大6戦のファイナルステージで破り、日本シリーズに進出する“下剋上”が不公平だとの声が出ていた。16球団に増やせば、例えばセ・パ各8球団とし、それぞれ4チームでさらに2地区を構成する「2リーグ4地区制」も可能に。それぞれの地区の1位同士で対戦すれば、そうした不合理は解消されるというわけである。

 ソフトバンクはこれまで、下剋上で日本一になって批判を受けたり、あるいはシーズン制覇しながらもCSで泣いたりした経験もある球団だ。それゆえに、王氏はCS改革が念頭にあったのだろう。

 これを受け、この年4月には古田氏もテレビ番組で、「16球団構想は今もう、既にやっている」「チャンスで言うと、とりあえず2球団。その気になれば2年後からあると思っている」と、水面下で動きが進んでいる旨を明かしたのである。

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