初めての飲み会は「JR秋葉原駅の構内」…タブレット純が語る「朝日新聞名物記者」が最期に残した“遺作”への想い
昨年10月、63歳で亡くなった朝日新聞編集委員・小泉信一さんが、デイリー新潮で連載していた「メメント・モリな人たち」が、新潮新書『スターの臨終』として書籍化されました。「メメント・モリ」とはラテン語の格言で、「死を想え」「死を恐れるな」の意味があります。昨年1月、ステージ4の末期がんと診断され、余命宣告を受けた小泉さん。自身に迫る「死」と向き合いながら、連載では全69回、63人の人生の最期を追い続けました。
新潮新書刊行にあわせ、生前の小泉さんと親交のあった歌手で芸人のタブレット純さんに、小泉さんとの思い出や書籍の感想をうかがいました。
【写真】書籍のもとになった、「デイリー新潮」連載「メメント・モリな人たち」誕生秘話と、連載担当者が語る小泉さんとの思い出はこちら
教えてもらった「究極の飲み方」
二人の出会いは2018年のことだった。文化放送の「大竹まことゴールデンラジオ!」内で、純さんがレギュラーを務める中継コーナーがあり、東京・築地の朝日新聞東京本社を訪問。その際に、番組に登場したのが小泉さんだった。
「“新宿ゴールデン街の歌姫”として知られた渚ようこさんや、娯楽映画研究家の佐藤利明さんなど共通の知人がいたこともあり、以前からお名前は知っていたのですが、この中継で初めてお会いしたんです。その頃の小泉さんは“寅さん記者”として有名で、『男はつらいよ』の主題歌を一緒に歌いました。それで“今度、飲みに行こうよ”と誘って頂いたんです」
全国紙でも唯一の「大衆文化担当」である朝日新聞編集委員からのお誘い。さて、どんな店に行くのだろうか……。約束の日、小泉さんは現れるなり、こう言った。
「究極の飲み方があるんだ!」
なんと、連れていかれたのはJR秋葉原駅の構内だったという。
「自販機の脇の一角で、缶チューハイを飲むんです。トイレが近くて、缶を置ける手すりもあって、ゴミ箱も目の前。小腹がすいたら駅そばもあるし、小泉さんにとってはベストポジションなんですね(笑)。コンビニで売っていたゆで卵が大好きで、『この塩加減がいいんだよ』と。ゆで卵をつまみに、ひたすら飲みました。最初にこういう場所に誘ってくれるなんて、仲間意識を持ってもらったのかなと思って、とても嬉しかったです」
「ムード歌謡漫談」という新ジャンルを確立した純さんだが、歌謡曲はじめ、埋もれた昭和の文化を後世に残す活動でも知られる。「週刊新潮」で連載中の「タブレット純の『昭和歌謡』残響伝」を連載する傍ら、『タブレット純のGS聖地純礼』『タブレット純のムードコーラス聖地純礼』も刊行しているが、もう1冊の著書には小泉さんとの思い出があるという。
「昭和40年代からあった、ローヤルレコードという自主製作のはしりのような、不思議なレコード会社がありました。どうしても調べたいと思って、小泉さんに相談したんです。東急線の駅前にある、タコ焼きをメインにした飲み屋さんでした(笑)。話を聞いてくれた小泉さんは『わかった。早速、新聞に載せるから』と、その場で写真を撮って、後日、記事にしてくださったんです。そうしたら、ローヤルレコードに関わっていた方から連絡があって、3冊目の巡礼本『タブレット純のローヤルレコード聖地純礼』を出すことができました」
山田洋次監督の言葉
2021年4月に小泉さんは前橋総局に赴任しているが、純さんはその直前に、小泉さんからがんに罹患していることを打ち明けられたという。
「でも、いつもの小泉さんと同じで、明るい口調で話していたので、そんなに深刻ではないのかな、と思っていたんですが……」
23年4月から「デイリー新潮」で「メメント・モリな人たち」が始まった。純さんが「素晴らしい連載ですね」と感想を言うと、小泉さんは嬉しそうに「ありがとう」と返事をしたが、書籍になるという話はしていなかったという。今回、改めて書籍になった連載を読み返して、純さんはこう語る。
「自身のがんに、余命宣告……小泉さんなりに感じるところがあったのだと思います。人の一生、人生って何なのだろうと。どんな人間でも臨終の時が来るわけですが、小泉さんもリアルに自分自身に重ね合わせていたのかなと思うんです」
本書に収められた人物は29人(あとがきもいれると30人)。歌手、俳優、芸人、プロレスラー、作詞家、実業家など、多岐にわたる人生ドラマが書かれている。
「だからといって、よくありがちな“お涙ちょうだい”的な、人情ベタベタの文章ではないのが小泉さんらしい。淡々としていながら分かりやすく、なおかつ面白い。決して暗くはないのが小泉さんの文章です。残り少なくなっていく自分の命を前に、どんな思いで原稿を書いていたのかな。改めて読むと、そう思いますね」
本の帯には、小泉さんも取材を通して親交のあった映画監督の山田洋次氏が、本書の中身を的確に伝える、素晴らしい推薦文を寄せている。
「最後に自分の著作を形にして、一番の憧れである『男はつらいよ』シリーズの山田洋次監督に推薦文を書いて頂けるなんて、正直、鳥肌が立ちました。凄いな、と。完璧に小泉さんの人生をやり遂げたのではないでしょうか」
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