Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」騒動 ベートーヴェンの描写から感じ取れる「ロックのルーツとの遠い距離感」

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コロンブス評価の変化

 長年、クリストファー・コロンブスは1492年にアメリカ大陸を発見した英雄とされていた。しかし近年、その評価はかなり変わっている。そもそも「発見」というが、アメリカ大陸は無人島だったわけではなく、すでに住んでいる民族はいた。その先住民族からの強奪、大量虐殺、レイプ、植民地化、奴隷化……。

 これを無視してコロンブスを讃えるのはおかしい、という考えが広く共有されるようになった。ネイティヴ・アメリカンや黒人差別の根源にある白人至上主義そのものではないか、ということだろう。そのため、全米各地にあったコロンブスの像は破壊されたり、海に捨てられたりしている。

 そのあたりの認識が制作時には、メンバーには欠けていたのだろう。MVに映る彼らから悪気は感じられない。あまりにも明るく、無邪気に「歴史上の偉人」を演じている。

 現場には多くのスタッフがいたはず。類人猿の衣装やバナナや人力車を調達したスタイリングのスタッフもいただろう。なぜ誰もやめさせなかったのか――。コレ、やっちゃいけないんじゃないかな? と感じたスタッフもいたはずだが……。

 楽曲「コロンブス」はコカ・コーラのキャンペーン・ソングでもあったが、日本コカ・コーラ社は6月13日に楽曲を使用したすべての広告素材の放映を中止したという。コロンブスという存在そのものが前述の通り、かなり微妙なものとなっていることを考えると、大企業であるコカ・コーラもまた随分無邪気だったんだなと思う。

搾取から生まれたという批判も

 コロンブスもさることながら、ベートーヴェンが先住民にピアノを教えるというのも、悪い意味でかなり刺激的なものだったと思う。アメリカの歴史や社会的な流れに無知であったとしても、ポップミュージックの歴史を考えると無神経だと批判されうる描写だった。

 もともとロックは、ブルースやソウルから生まれた。ロバート・ジョンソンやオーティス・レディングらはみな黒人。マイノリティの人たちから生まれた音楽だ。

 初期のロックンロールも、チャック・ベリーやリトル・リチャードなど黒人のミュージシャンが生み出したものだ。その後に登場したビートルズやローリング・ストーンズやエリック・クラプトンのような白人のビッグネームの多くは黒人の音楽を愛し、憧れ、リスペクトした。

 ロックについて「黒人文化の搾取によるもの」という批判すらある。最近ではラップでもそうした見方をする向きもいる。

 だが、実際にはミュージシャンたちは多くの場面で仲良く、人種の壁を越えて交流、共演してきた。それは前提にリスペクトがあったからだ。

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