記憶喪失「ピアノマン」の知られざる近況 地元の人間誰もが口を閉ざす理由とは

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 過去に世間を騒がせたニュースの主役たち。人々の記憶が薄れかけた頃に、改めて彼らに光を当てる企画といえば「あの人は今」だ。今回紹介するのは、今から19年前、瞬く間に世界中の関心の的となった謎の男「ピアノマン」の知られざるその後である。

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 ピアノマンは、今もこの近くで元気に暮らしていますよ――。

 そう話すのは、ピアノマンが生まれ育った町で働く、さる新聞記者である。

 今から19年前、瞬く間に世界中の関心の的となった「ピアノマン」。

 彼がイギリス南東部で発見されたのは、2005年4月7日の夜。雨が激しく降るケント州の海岸で、傘もささずびしょ濡れのスーツ姿でとぼとぼと歩いていたところを警察に保護されたのだ。

 浮浪者か、それとも自殺志願者のたぐいか……。男性を保護した警官も、単なる「一時保護」で終わると考えたに違いない。

世界を巻き込む「謎解き合戦」に

 しかし警察でも、その後に収容された病院でも、男性は一言も言葉を発さず、身元も不明。身分証を所持しておらず、衣服のメーカーラベルやタグまでが切り取られていた摩訶不思議。当局もお手上げである。

 困り果てた病院関係者は「筆談ならば」といちるの望みを懸けて、メモ用紙とペンを置いて病室を後に。翌朝見ると、与えたメモ用紙には精緻なグランドピアノとスウェーデン国旗の絵が描かれていたのであった。

 驚いた医師や看護師は、この男性を病院の礼拝堂にあるピアノの前まで連れて行った。すると、それまで人と目も合わせようとしなかった男性が、人が変わったように鍵盤をたたき始め、チャイコフスキーの「白鳥の湖」や、ビートルズの「アクロス・ザ・ユニバース」を、4時間にわたって繰り返し弾き続けたのだ。

 プロのピアニストかと思われたが、病院がヨーロッパ中の楽団に問い合わせるも、該当者はなし。仕方なく病院は男性の写真を公表し、世界を巻き込む「謎解き合戦」が幕を開けたのである。

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