ストーカーの「暴走スイッチ」はいつ入るのか 専門家が警告する「メールの文面」は

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 8日、新宿区のタワーマンションで女性が顔見知りの男に刺殺されるという事件が起きた。男は過去、被害者につきまとっていたことで逮捕された過去もあるという。

 繰り返されるストーカー犯罪を防ぐためには、法改正を含めて社会全体での取り組みが求められるのは言うまでもない。

 一方で、警察など公権力に万全を期待するのは無理だろう。ストーカーを次々逮捕、拘束することは難しいし、被害に遭いそうな人を24時間体制で警護することは不可能だ。

 また、一口にストーカーといってもその危険度はさまざま。メールや電話がメインの場合もあれば、今回のように凶行に至る場合もある。多くの場合、警察が介入した時点で諦めるともいわれているだけに、対策は実に難しい。

 ストーカー問題やDVなどの相談に対処するNPO法人「ヒューマニティ」の理事長、小早川明子氏の著書『「ストーカー」は何を考えているか』には、その危険度の見分け方についての解説が書かれている。

 危険度を判断するには「行動レベル」「心理レベル」、二つのレベルでの判断が求められる、と小早川氏は述べている。実際のケースを見ながら、今回は行動レベルでの判断について見ていこう(以下、『「ストーカー」は何を考えているか』第4章 危険度をどう見分けるか――行動レベルと心理レベルの3段階 より)【前後編の前編/後編を読む

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 ストーキング行為によって起きている被害や危険がどの程度か、客観的に見るための方法があります(下の図を参照)。

 ピラミッド型の三角形を3分割した下の部分が(1)マナー違反レベル、中間が(2)不法行為(民事訴訟相当)レベル、上の三角形は(3)刑事事件レベル。まず被害がどのレベルにあるか、起きた事実をもとに被害者と一緒に確認していきます。

 例えば、いくら拒否しても「愛している」「付き合いたい」「離れたくない」など追いすがるようなメールが送られてくる、贈り物や花束が届けられるというのは(1)。

 メールの文言が「死ぬ」「誠意を見せろ」など相手に恐怖を与えるものになり、会社で待ち伏せされるような事態は経済的・精神的実損を伴うので(2)の段階です。「訴える」と言われたらさっさと訴訟レベルで応じればよいし、もし不法行為がストーカー規制法に抵触するものなら行政処分である警告を発令してもらいます。

 その警告が効かない場合はすでに(3)のレベルで、告訴すれば逮捕も可能です。傷害や強姦、名誉毀損などがあれば、規制法とは別の刑事の罪状で処罰を願い出ることができます。

 ある相談者(50代女性)は趣味の旅行サークルで知り合った年下の男性から交際を申し込まれ婉曲に断ったのですが、しつこく旅行に誘われた。これは(1)の段階です。

 女性は「一人旅が好きだから」と再度断ったものの、あるとき長距離列車に乗る話をしたところ、その日、男性が後ろの座席に座っていた。尾行による待ち伏せで、事態が(2)の段階に進んだことになります。

 彼女は体を硬くして無視していましたが、男性は隣の席に移動してきて手を握った。「近寄らないで」と必死で拒むと、「宣戦布告ですか」と言う。無理に体に触れるのは暴行罪に相当するし、精神的恐怖を与える言葉を使っている。いよいよ(3)の段階です。

 この女性が警察で相談しても、背筋が寒くなるようなその恐怖に反応してくれる意識の高い警察官ばかりとはかぎりません。暴行罪どころか、「手を握られたぐらいで大げさな。だって知り合いなんでしょう」で片付けられてしまいかねないのが実情です。

甘えが高じた脅迫的一行

 20代の男性教師は、30代半ばの先輩女性教師とメールアドレスを交換しました。お互いに仕事の悩みを打ち明けることがあった。転職が決まった男性は贈り物をもらい、少しずつ恋愛感情を抱くようになりました。

 その半年後、女性教師からのメールが途絶えるようになり、元の学校に連絡すると結婚して退職したと聞いてがくぜんとします。男性は「結婚おめでとうございます。もう二人で会うことはできないと思います。最後に会いたいです」というメールを送りましたが、返事は「会いません」というごく短いものでした。

 このメールで自分の中にカチッとスイッチが入った、と彼は言います。あとは一気にエスカレートしていきました。

「では、今後は同窓会にも出られないのですか?」。返信なし。

「分かりました。あなたは僕に会いたくなくなったのですね。明日からは気持ちを切り替えるので、最後にどうか電話をください」。

 返信は「お願いだから、もうメールしないで」。

 これを見て男性は、「理由を教えてください。返事しないなら覚悟をしてください」と送ってしまいました。

 おそらく最後の一行で女性は恐怖を感じたのでしょう。男性は警察に呼び出されて注意を受けました。

 その足で私のところにやってくると、

「悔しい。僕はもうあの人を好きじゃないし、今は憎しみでいっぱいです。彼女は僕にいろいろと甘えるようなことも言ったので、僕を好きなのかと思ってしまった。彼女にも少しは責任を感じてもらいたいので、当時のメールを教育委員会と市長に送ろうと思うんです」

 と涙を流します。

 私は次のように言いました。

「この結果には、あなた自身にも責任がある。彼女は結婚相手がいるので、二人で会うのは気がとがめたんでしょう。彼女を追い詰めることで解決とするのか、一度は好きだった女性を守る気持ちで問題を解消するのか、よく考えてみたらどうですか」

 人間関係というのは一線を引いていないと些細なことで問題になります。女性は結婚前に、男性に結婚することを言っておけばよかった。ちょっとしたことで互いに傷つくのはマナーレベルのトラブルですが、手を打たずに放置していると、いつの間にかストーキングという事態に発展してしまいます。

 ***

 ここまでは「行動レベル」での危険度の判断である。小早川氏によれば、同時に「心理レベル」での判断も重要だという。その見分け方については後編に譲ることとする。

『「ストーカー」は何を考えているか』より一部を抜粋、再編集。

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