「自分はブックオフから逃れられないのか…」 漫画家・大石トロンボが語る、埋まらない「東京との距離感」

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ブックオフから感じる東京の多面性

『新古書ファイター真吾』(皓星社)などの著書を持つ漫画家の大石トロンボさん。本にまつわる漫画をエックスやnoteで発信し人気の彼は、いまだに「東京」という都市に距離を感じている。大好きなブックオフも、都内の店舗ではどこかそわそわしてしまって……。

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 上京して四半世紀以上たつが、ずっと千葉県在住だからか仕事場である東京はいまだアウェイであり、大好きなブックオフですら東京の店舗に対しては同じ感覚を抱いている。基本的には通勤定期区間内の千葉県の店に行くことが多く、東京は未開拓の店が多いことも要因のひとつだろう。千葉の店は落ち着くが東京の店はどこかそわそわする。でもその距離感、緊張感もまた醍醐味だ。千葉で見かけないようなマイナー本も東京の均一棚では出会えることがある。だから、アウェイとはいっても、きっと寄り添ってくれるだろうと期待して通ってしまう。

 東京の多面性はブックオフからも感じ取れる。より都心に近いブックオフには都会感があり、下町のブックオフには下町感がある。沿線ごとでも雰囲気は違う。それは本の品ぞろえの傾向だけではなくその街にたたずむ店の空気感のようなものだ。だからせめて、わが友ブックオフを通して東京とつながりたいと思っている。原宿や渋谷のような若者の街にも、かつてブックオフがあったからこそ足を踏み入れることができたし、まんだらけ→ブックオフというホットラインのおかげでセンター街も堂々と歩けた。巨大な魔窟である池袋サンシャイン60通り店があるからこそ池袋だって怖くない。

遅れてきた青春を謳歌した30代前半

 とはいえ、それでも一向に縮まらない東京との距離感。真に楽しめている気はしない。だが、昔ある一時期だけ東京と一体になれた時があった。

 30代前半の頃、デザインを学んでいた大学時代の研究室メンバーとの同窓会が開催され、これがめちゃくちゃ楽しく、継続して集まることになった。東京タワーを見ながらの花見、遊覧船での東京湾クルーズ。なんだこれは……これが東京の真骨頂! これが憧れのリア充ライフ! と、遅れてきた青春を謳歌していた。

 新宿での飲み会では同級生のMさんも来た。オシャレサブカルガールという印象だったMさんは当時非モテこじらせ陰キャ学生だった自分などが関わることもないヒエラルキーの存在だった。そんな彼女が今目の前にいて、ともに盃を交わす。なんて素晴らしい夜だろう。東京は今自分に味方をしてくれている。だがMさんの第一声は思いもよらないものだった。

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