マスターズ閉幕 初日暫定1位につけた“奇想天外な”デシャンボーに注目

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30キロ以上増量

 昔からデシャンボーの言動は、常識や前例、既成概念にとらわれず、自分の考えや信念に基づいていた。だが、「普通の人」である我々から見れば、彼のアウトプットはあまりにも奇想天外で、だからこそ彼は大きな注目を集めてきた。

 PGAツアーにデビューする以前のアマチュア時代から、デシャンボーが手にするアイアンは「全番手がすべて7番アイアンの長さに合わせてある同一レングス」であることが話題になっていた。

 プロに転向し、いざPGAツアーにデビューすると、デシャンボーは他選手たちからスロープレーのやり玉に上げられた。また、手にしていたパターも「サイドサドル」と呼ばれたパッティングストロークの方法も「ルール違反」と指摘された。そのたびにデシャンボーは素直に指摘を受け入れて、改善・改良を心掛けてきた。

 コロナ禍で一時休止されたツアーが再開された2020年の秋、デシャンボーは巨体となって登場し、人々を仰天させた。

 1日に6食のステーキディナーを食べ、プロテインドリンクを6杯飲み、体重を30キロ以上も増やして飛距離をさらにアップさせたデシャンボーは、「やりすぎだ」「化け物みたいだ」「マッチョな肉体はゴルフ向きではない」などと批判もされた。

 だが、その巨体でロケット・モーゲージ・クラシックを制し、全米オープンを制し、翌年の春にはアーノルド・パーマー招待の舞台であるベイヒルの6番(パー5)で誰も成功しえなかった池越えのショートカットを成功させ、フロリダの大観衆を狂喜させながら通算8勝目を挙げた。

特注品のアイアン

 デシャンボーが我が道を行くことを覚えたのは幼少期だった。経済的に困窮する家庭で育ち、「ランチを買うお金を持っていけず、学校ではいじめられていた」という彼は、多くの時間を自宅近くのゴルフ場で過ごしたそうだ。

 そこにはマイク・シャイという発明好きで愉快なティーチングプロがおり、デシャンボーはシャイと一緒に「そのへんに落ちていた古いタイヤや箒、バケツやサッカーボール、何でも使ってゴルフの練習器具を発明しては、それを使って練習をしていた」という。

 デシャンボーが同一レングスのアイアンを「これがいい」と信じて使い続けているのも、彼にそんなバックグラウンドがあるからなのだろう。

 2022年にデシャンボーはPGAツアーから離れ、リブゴルフへ移籍した。今年のマスターズで、彼は大勢のゴルフファンとテレビカメラの前に久しぶりに姿を現わした。かつて大幅に増量して驚かせたが、その後は減量に励んだおかげでさほどの巨体ではなくなっている。だが、個性的で独創的な姿勢は変わってはいなかった。

 デシャンボーが今年のオーガスタ・ナショナルで手にしていたアイアンは、やはり同一レングスに統一されていたのだが、アイアンのヘッドは驚くなかれ3Dプリント技術を駆使して製造されたばかりの特注品だった。昨秋、コーチのシャイが3Dプリント技術に興味を抱いて作った試作品のアイアンを、新しいもの好きのデシャンボーがさっそく試打してみたところ、「これはいい!」となった。

 すぐさまシャイの弟子のような発明家が所有・経営しているアイアンメーカー「Avoda」に依頼してデシャンボー用のアイアンセットを作ってもらい、マスターズウィークの月曜日にUSGA(全米ゴルフ協会)からルール適合の承認を受けたばかりだった。

 実績が一切ない未知数だらけのアイアンを、マスターズの舞台でいきなり使い始めたデシャンボーの勇気と行動力は見上げたものだ。そのアイアンで初日を単独首位で発進したことはまさに「あっぱれ」だった。

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