ドラマ「三体」、中国版にはネトフリ版にない“奥行き”が 韓流に負けない華流サスペンスドラマ4作
Netflixでドラマ化された「三体」の大ヒットに象徴されるように、韓国が隆盛を誇ったドラマの世界で、最近、中国の作品が注目を集め始めている。今回はそんな中国ドラマにおいて高い評価を獲得したサスペンスをご紹介。どの作品も、中国のうるさ型の視聴者を満足させる巧みなストーリーテリング、俳優たちの演技の上手さ、エンタメと見ごたえのバランス、洗練された映像センスなどが光る。「中国なんてまだまだじゃないの？」と思い込んでいるドラマファンにこそ、ぜひトライしてもらいたい。【ライター・渥美志保】
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中国ドラマ版「三体」の違い
2008年に中国で単行本が刊行された劉慈欣（リウ・ツーシン）による『三体』は、「中国からSF小説の傑作は生まれない」という思い込みを爽快に裏切り、全世界で2900万部の大ベストセラーを記録した。2015年にはアジア人初のヒューゴ賞長編部門を受賞し、世界のエンタメ業界の注目を集めている。
良質な原作があるところには良質なエンタメ作品が生まれるのは当然のことで、Netflix版に先駆けて、2023年1月から中国の配信プラットフォーム「テンセントビデオ」で、中国版ドラマ「三体」が配信された。日本ではHulu、FODなどで配信されている。
「地球を侵略する宇宙人vs応戦する人類の科学」という「アルマゲドン」的なシンプルな二項対立をスピード感で描いたSFであるNetflix版と比べ、中国版は「科学の限界に失望し、救世主を求めるエリート集団の暴走」をある種の宇宙人カルトのように描いており、じわじわとしたスリラー味が強い。
国際的な学術組織「科学フロンティア」の会合に招待されたナノ素材の研究者・ワン・ミャオ。公安局の刑事・史強（シー・チアン）に、友人の科学者・楊冬（ヤン・ドン）を紹介されたワン・ミャオは、さらに近年世界中で続発するエリート科学者の謎の自殺とフロンティアの関わりを知らされる。そんな中、フロンティアに「ナノ素材の研究をやめること」を迫られ拒絶したワンミャオの視界で、「謎のカウントダウン」が始まり……。
Netflix版では、ワン・ミャオのキャラクターを数人の科学者に振り分けて描いているのも特徴だ。一方の中国版はワン・ミャオとシー・チアンのバディものの趣で、堅物で神経質な科学者のワン・ミャオと、科学音痴ゆえにおおらかな強さとユーモアを持つシー・チアンの凸凹コンビが、やがて育んでゆく友情も見どころ。文化大革命とその後の監視・密告社会の恐怖、科学と引き換えの環境破壊といったことを通じ、決して学ばない人類の自浄能力のなさを痛烈に批判するなど、ドラマとしての奥行きはなかなかのもの。
証言モノのお手本のような傑作
「摩天楼のモンタージュ～Horizon Tower～」（Amazonプライムビデオで配信中）もおすすめの中国サスペンス作品だ。
突然の停電で混乱する大晦日の夜、高級マンション「ホライズンタワー」の一室で、テナントのカフェを営む女性メイバオが遺体で発見される。担当刑事のジョン・ジングオとヤン・ルイセンのコンビは住民たちへの事情聴取を開始する。
第一発見者の警備員からメイバオの複雑な家庭環境を聞いた2人は、幼馴染の建築家リン・ダーセンが彼女の部屋の持ち主であることを知る。再会を機に始まった2人の不倫関係は、やがてダーセンの妻の知るところとなり、停電の夜に行われていた新年のパーティーでメイバオとの間でトラブルが持ち上がっていた。
一方、タワーの仲介を手掛ける不動産業者リン・モンユーが、浮気相手ディン・シアオリンとの情事に無断でマンションの空室を使っていたことが発覚。さらにメイバオの部屋につながる換気ダクトの中からは、モンユーともう1人の2種類の指紋が見つかる。食い違う住民たちの証言から浮かび上がってくるものとは……。
証言モノの面白さは「証言者は何かしらの秘密を抱え、必ず嘘をつく」という点にあり、この作品はそのお手本のようなドラマと言える。
事件の裏側にはいくつもの隠された事実があり、後半には事件そのものが前半では全く異なるものに変貌し、「清純な美しさで全男性を魅了し、全女性が嫉妬するメイバオ」はもとより、ステレオタイプな思い込みによって判断されていた多くの人物が、ラストには180度異なるキャラクターになってゆく。モンユーとシアオリンの空室を使った浮気で毎回コスプレをしたり、重要な鍵を握る証言者＝小説家ウー・ミンユエの小説世界がアニメで表現されるなど、エンタメ要素もたっぷり。最終話まで二転三転を繰り返すが、後味が意外にスッキリなのもいい。
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