ドラマ「三体」、中国版にはネトフリ版にない“奥行き”が 韓流に負けない華流サスペンスドラマ4作
“中国の東野圭吾”原作のシリーズもの
人気推理小説家・紫金陳(ズージンチェン)が書いたシリーズもの『推理の王』を原作にしたドラマ3作品、「バーニング・アイス―無証之罪―」(Amazonプライムビデオで配信中)、「バッド・キッズ隠秘之罪」(Amazonプライムビデオで配信中)、「ロング・ナイト 沈黙的真相」(Amazonプライムビデオでレンタル可能)にも注目したい。
独特の嗅覚で難事件を解決する、型破りで天才的な一匹狼の刑事・厳良(イェン・リャン)を主人公に描いた、超大ヒットクライム・サスペンス。“中国の東野圭吾”と呼ばれる作者が構築した緻密なストーリー、サスペンスとしてのハラハラドキドキと深みのある人間ドラマはもとより、映像のクオリティも素晴らしい作品である。共通したキャラクター、共通した俳優が登場するのも、同じ制作陣が手掛けるシリーズならではの面白さだ。
中国東北地方にある架空の都市・哈松(ハーソン)を舞台に起こる連続殺人事件をきっかけに、そこに関わる人達の交錯する運命を描く「バーニング・アイス―無証之罪―」は、3作品の中で最初にドラマ化された作品。
雪だるまにくくりつけられ凍りついた運送会社社長孫紅運(スン・ホンユン)の絞殺体が、「私を捕まえてください」という張り紙とともに発見された。3年前から始まった連続殺人事件「雪だるま殺人事件」と断定した警察は、女性刑事林奇(リン・チー)が率いる捜査チームに、交番勤務に左遷されていたイェン・リャンを投入して事件を追う。
重要参考人として捜査線上に浮かんだホンユンの愛人朱慧如(ジュー・フイルー)は、事件の夜の行動をネタに正妻に脅迫されていた。高校時代から彼女を思う新米弁護士の郭羽(グオ・ユー)は彼女を助けようと奔走するが、不慣れな裏社会のツテに翻弄された2人は、誤って人を殺してしまう。パニックに陥る2人に声をかけてきた謎めいた目撃者駱聞(ルオ・ウェン)は、彼らに事件の完璧な隠蔽を提案し……。
かつて警察の優秀な監察医だったルオ・ウェンは、なぜ犯罪に手を染めるようになったのか。意図的に証拠を残す劇場型の「雪だるま殺人事件」が導くその先にある過去の失踪事件が明らかになる前半。さらにその失踪事件に隠蔽された新たな事件が交錯し、男たちに翻弄される薄幸すぎる美女フイルーの悲劇が深まり、事件の当事者となったイェン・リャンがルオ・ウェンにある部分で共鳴してゆく終盤……とどこをとっても目の離せない面白さだ。
不遇でも強い3人の子ども
「バーニング・アイス―無証之罪―」に続いてドラマ化された「バッド・キッズ隠秘之罪」は、刑事になる以前、子ども時代のイェン・リャンが登場する。
母子家庭に暮らす少年・朱朝陽(ジュー・チャオヤン)のもとに、児童施設で暮らしている幼馴染のイェン・リャンが妹分の普普(プープー)とともに現れる。病気で入院するプープーの弟に会いに行くために施設を脱走した彼らは、弟の手術代を工面するために知人の大人を訪ね歩くが、うまくいかない。
一方、数学教師張東昇(ジャン・ドンション)は、金銭的に依存している稼ぎのいい妻から離婚を切り出される。彼は、離婚をすすめる妻の両親をハイキングに誘い、事故に見せかけて崖から突き落とした。偶然にもその現場をビデオ撮影していたイェン・リャンら3人の子どもたちは、手術代を手に入れるためにドンションを脅迫する計画を立てる。そんな中、チャオヤンの父の連れ子が転落死し、再婚妻・王瑶(ワン・ヤオ)はその場に居合わせたチャオヤンを逆恨みし……。
作品の見所は、決して大人に騙されない頭の良い3人の子どもたちと、黒い数学教師ドンションとのスリリングな駆け引きだ。さらに、ことがどんどん大きくなっていく展開で秀逸なのは、ドンションの中に子どもたちに対する奇妙な情が生まれてゆくことだ。
無表情に人を次々と殺しながらも人間味も感じさせる彼を演じきる中国の大スター、チン・ハオは、「バーニング・アイス」では大人になったイェン・リャンを演じている。
チャオヤン周辺の大人たちのダメっぷりも、いちいち「人間とはこういうもの」と実感させるのだが、最も心に残るのは田舎警察の警官・陳おじさんの存在だ。大人に騙されない子ども=イェン・リャンに騙され続けるこの人は、でもイェン・リャンを決して見捨てない。作品がたどり着くヒューマニズムの象徴であり、後のイェン・リャンを形作っていることがわかるラストも胸にグッと来る。
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