勾留中にがん判明で死亡した大川原化工機元役員 「拘置所の医師に治療義務違反はない」の判決に遺族は「このままでは終われません」

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裁判官が輪番制で判断

 NHKは3月21日放送の「時論公論」でこの裁判を取り上げた。解説委員は刑事訴訟法(89条)では保釈却下の条件として「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とされているのを検察が「罪証隠滅の“おそれ”」にすり替え裁判所もそれを追認してしまっているなどと指摘していた。

 保釈申請の扱いは裁判官が判断するが、これは逮捕令状の発布と同様、裁判官の輪番制なので大川原化工機の事件でも20人以上の裁判官が関わっている。却下し続けたことが相嶋さんの命を奪ったのであれば、どの時点でどの裁判官が判断したかということはわかるのだろうか。わかるのなら相嶋さんの遺族が却下した裁判官を訴えることはできないのだろうか。

 気になったので、後日、高田弁護士に訊いてみた。

「保釈請求却下の決定書はそのたびに担当裁判官の名が書かれているので、訴訟の当事者には誰かはわかります。裁判官は国家公務員ですので、その判断が著しく不相当である場合は国を相手に訴訟を起こし、裁判官を証人として出廷させることが理論的には考えられます。とはいえ、裁判官の責任を追及するハードルはかなり高いですね」(高田弁護士)

 裁判官は医師ではないが、ある意味、人の命を預かっているのである。「独立性」が守られているだけに、輪番制であってもそういう意識を持って向き合ってほしい。

調書を破棄したとして刑事告発

 さらに、3月25日、大川原化工機側は元役員の島田さんの取り調べの際に「取調官が故意に文書を破棄した」として、文書を破棄したとされる安積(あさか)伸介警部補(現警部)と上司の宮園勇人警視に対し公用文書毀棄などの容疑で警視庁に告訴状を提出した。

 20年3月、島田さんは逮捕直後に取られた弁解録取書について、文面が話した内容と異なっていたため「修正してください」と求めた。安積刑事はパソコンで修正した振りをして島田さんに署名させた。その後、この調書はシュレッダーにかけて廃棄され、同刑事は「誤って破棄した」と報告した。

 大川原化工機が国と都を相手取った損害賠償請求訴訟では、昨年6月、公安部の同僚刑事が「捏造です」と証言。東京地裁は昨年12月、都と国の過失を認めて大川原化工機など原告側に合わせて1億6200万円の支払いを命じた。この判決の中で調書を「過失によって破棄したというのは不自然」と指摘された。

 告訴に際して島田さんは「捜査員らを罰しようというより、組織内部で検証していただきたいという思いが強い。自分たちの持つ公権力の大きさを認識してほしい」と話した。

 原告が勝訴した損害賠償請求訴訟も今年に入って双方が控訴している。大川原化工機の冤罪事件をめぐる攻防はまだまだ続く。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「『サハリンに残されて」』(三一書房)、「『警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」』(ワック)、「『検察に、殺される」』(ベスト新書)、「『ルポ 原発難民」』(潮出版社)、「『アスベスト禍」』(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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