【不適切にも】最終回で純子はどうなる? クドカンがドラマに込めた意図を読み解く

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核心部分は野心的な硬派ドラマ

 ファンなら知っての通り、クドカンのドラマはいずれも情報量が多い。このドラマの中身も多彩であり、ホームドラマ、テレビ業界ドラマ、青春ドラマなどが混在している。しかし、本質はスタンダップコメディドラマに違いない。本場は米国。社会風刺色が色濃いコメディドラマである。

 日本での代表作は1970年に放送された「お荷物小荷物」(朝日放送制作、当時の同局のネットはTBS系)。出演したのは中山千夏(75)ら。一見するとコミカルなホームドラマなのだが、返還前だった沖縄の問題、ジェンダー問題、憲法9条問題などがストーリーに盛り込まれていた。

 それでいて堅苦しさのない愉快なドラマで、世帯視聴率は30%近くにも達した。あのころは日米安保条約の延長問題や学園紛争があり、政治の季節だった。

 時代は移り、クドカンはこのドラマでは現代人にとって身近な問題を並べた。パワハラ、働き方改革以外にも毎回、社会風刺を盛り込んだ。セクハラ(第3回)、SNSとの向き合い方(第4回)、不登校(第5回)、つまらなくなったテレビ(第6回)、SNSでの中傷とエゴサーチ(第7回)、1度の過ちも許さない風潮とコタツ記事(第8回)、妊活問題と近隣トラブル(第9回)。

 ここまで社会風刺色の濃いドラマは平成期入り後、なかった。クドカンがコミカル色でコーティングしたから気づきにくいが、核心部分は野心的な硬派ドラマにほかならない。

最終回に現れるのは死生観か

 ホームドラマの部分にもクドカンの個性が色濃く表れている。第1話から市郎は亡くなった妻・ゆり(蛙亭のイワクラ)が祀られた仏壇に向かって手を合わせた。第9話になると、26歳だった1995年1月に阪神・淡路大震災で死去した純子の仏壇に向かって、夫の犬島ゆずる(古田新太)が目を伏せた。これほど仏壇が出てくるドラマは最近では珍しい。

 小川家も犬島家も家族やその霊を大切にする。結び付きが固い。クドカンのドラマの家族は大半がそう。クドカン自身が小学校の校長だった父親や文房具店を営んでいた母親、そして2人の姉に大事にされたせいでもあるのだろう。

 小川家の歴史はあと9年で終わる。市郎は自分たちの運命を知ってしまったが、純子にはそれを伝えていない。最終回はどうなるのだろう。

 第6話で市郎は苦悩を口にしていた。

「オレはいいんだよ。いつ死んでも。だけど、純子が。まさか26歳で亡くなるとはなぁ」(市郎)

 現代に暮らしていても切なくなるセリフだった。市郎は愛する純子の人生を全うさせるため、禁を破って歴史を変えるのか。それとも運命を甘受するのか。

 最終回にはクドカンの死生観が表れるのだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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