「ぼくの車椅子を押してくれるかい?」ピート・ハミルがささやいた、意外すぎるプロポーズの言葉

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メキシコで「九死に一生」

 彼が初めてメキシコへ行ったのは、海軍を除隊した21歳の時のことだった。
 
「本当はパリに行きたかったんだ!」
 
 彼は何度もこういっていた。もともとはパリで絵描きになることが夢だったが、物価が高くて手が届かず、現実的でないとわかるまでに時間はかからなかった。
 
「とにかくメキシコは物価が安いからね」
 
 引退してメキシコに移住するという知り合いの言葉に触発されたピートはメキシコ・シティ・カレッジがGI奨学金による留学生を受け入れていて、芸術学科を卒業すると芸術修士号の学位がもらえるという制度を見つけた。
 
 その瞬間からメキシコに留学するというアイディアに取り憑かれたピートは、幼馴染の親友ティム・リーに相談した。ふたりで願書を出し、入学許可が下りるとグレイハウンド・バスでメキシコ・シティを目指した。ポケットにはなけなしの80ドルを忍ばせていた。
 
 メキシコへ到着して数カ月の間、ピートは壁画家たちの力溢れる巨大な絵に脱帽し、芸術学科の授業のほかにスペイン語も勉強しながら、親友ティム・リーとともに近くの酒場や小屋、学生同士のパーティーなど至るところで飲んでは歌い、歌っては酔い、発育の良いメキシコ人の若い女を眺めたり、一緒に飲んだり踊ったりして、「あんなに楽しいときはなかった」というくらい良い時を過ごした。
 
 しかし、ハメを外して朝まで酔い潰れるようになり、ついには喧嘩騒ぎを起こした。“希望通り”にある娼家のドア一枚を壊したという罪状で、気がついたら警官に包囲され、逃げている後ろから拳銃を発砲された。
 
「タン、タン、タンって音がして、少なくとも3発の弾丸が頭のわきをかすめたんだ」

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