プロ野球開幕戦「西武対近鉄」 逆転満塁サヨナラ本塁打が生まれた激闘…テレビ中継は終了直前で“まさかの打ち切り”

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野茂英雄VS郭泰源

 今年もファン待望のプロ野球公式戦が3月29日に開幕する。これまでにも数多くの球史に残る名勝負が繰り広げられてきた開幕戦。ノーヒットノーラン目前からの大逆転劇という劇的幕切れから、多くのファンの記憶に残っているのが、1994年4月9日の西武対近鉄である。【久保田龍雄/ライター】

 1980年代後半から何度も優勝争いを演じてきた両チームのライバル対決。近鉄は3年連続開幕投手の野茂英雄、西武は来日10年目で初の開幕投手に指名された郭泰源が先発し、序盤から息詰まる投手戦となった。

 野茂は1回表、1四球を許したものの、3つのアウトをすべて三振で奪う。さらに4回まで12のアウトのうち11個までが三振と“ドクターK”ぶりを発揮。6与四球ながら、8回まで12奪三振の無安打無失点に抑え、開幕戦史上初のノーヒットノーランまであと3人となった。

 一方、郭も5回から8回までパーフェクトに抑えるなど、8回を2安打3四球6奪三振と一歩も引かず、スコアボードに16個のゼロが並んだ。

 そして、試合は最終回に大きく動く。9回表、近鉄は内匠政博のバント安打と犠打で1死二塁。郭はブライアントを敬遠し、4番・石井浩郎と勝負したが、2ボールからの3球目、シュートが内角に甘く入ってくるところを、「野茂のためにも何とかしようという気持ちで一杯だった」石井のバットが一閃し、左中間スタンドに運ぶ先制3ラン。4万人のファンで埋まった西武球場は、これで勝負あり、あとは野茂のノーヒットノーランを待つばかりというムードに包まれた。

「野茂と心中」と明言したはずが

 だが、史上初のパ・リーグ5連覇を狙う王者・西武も土壇場で執念を見せる。その裏、先頭の4番・清原和博が、ライトからレフトへ吹く強風を見て、「内角はない」と読み、野茂の134球目、外角高めを流し打ち。痛烈な打球がライト・内匠の頭上を越え、チーム初安打となった。

 快挙が目前で途切れた落胆からか、野茂は次打者・鈴木健に四球。さらに石毛宏典を左飛に打ち取ったあと、代打・ブリューワの二ゴロを大石大二郎がファンブルし、1死満塁となった。とはいえ、まだ3対0。鈴木啓示監督も前日「(開幕戦は)野茂と心中。それだけ信頼している」と明言しており、続投と思われた。

 ところが、ここで鈴木監督は、次打者・伊東勤に対し、野茂に代えて、守護神・赤堀元之を投入した。「野茂はあそこが限界だったと思う。それに伊東とは相性が悪い」という理由からだった。

 前年、野茂は伊東に18打数7安打1本塁打と打ち込まれていた。この日も西武の先発打者の中で唯一伊東から三振を奪うことができず、3打席連続四球を許していた。逆に赤堀は、前年伊東を7打数無安打と完璧に抑えていた。だが、赤堀は前日の「野茂と心中」発言で、「今日は出番がない」と思い込んでも不思議はない。どこまで心の準備ができていたか。

 一方、西武・森祇晶監督は、コーチが左の代打を進言したにもかかわらず、右から左に吹く強風を見て、「右打者のほうがいい。伊東の勝負強さに賭けた」とそのまま打席に送り出す。

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