「あなたの口座が詐欺に使われているので、お金を抜いて捜査する」790万円を送金してしまった45歳女性が「これは詐欺だ」と気づいた瞬間

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前編「【特殊詐欺の実態】45歳女性はなぜ『総務省の松本』『北海道警の佐々木』を名乗る人物に790万円騙し取られたか」のつづき。

「北海道警察特別捜査本部捜査二課の佐々木」を名乗る男に誘導され、銀行口座や運転免許証、障害者手帳などの個人情報を全て開示してしまった中井優子さん(仮名)。それでも被害総額が全財産の3分の1ほどの790万円で済んだのは、“曜日”のおかげだった。電話を受けた2月11日は建国記念日かつ日曜で、翌12日は振替休日だった。多くの金融機関では振り込み手続きができなかったのだ。【酒井あゆみ/ノンフィクション作家】

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「取り急ぎ、その日(詐欺電話を受けた11日)に振り込みができる住信SBIネット銀行のお金だけを送ることになりました。それが計790万円。送金の手続きに関しては『札幌地方検察庁』のLINEアカウントともやり取りするようにと言われ、『滝川検事』と名乗る人がネットバンクの振り込みのやり方をレクチャーしてきました。動画通話に切り替え、画面を見せながらやったように記憶しています」

 振込先に指定されたのは、PayPay銀行とUI銀行の口座。それぞれ北海道警察本部の捜査員だという『船山』という女性と『中村』という男性の名義のものだった。なぜ個人の口座に?と思ったものの、中井さんは滝川検事に言われるまま金を振り込んでしまう。

 それにしても、なぜ犯人たちは多くの銀行が休みの日曜に犯行に及んだのか。たまたま中井さんはネットバンクを利用していたものの、そうでなかったらどうするつもりなのか。普通に考えれば詐欺のターゲットになるのはお年寄りであり、ネットバンクを利用している可能性は低そうだが……。なんとも杜撰な計画と言えなくもない。

つみたてNISAも売却させようと…

 そして翌2月12日の月曜、犯人たちは「資金調査一時預かり証明書」なる書類の写真を中井さんに送って来た。そして、他の口座の金を狙い始める。

「イオン銀行にある程度まとまったお金を預けていたのですが、こちらの手続きの関係でネット送金ができない状態でした。だから、お金を引き出すために、ATMのあるイオンまで1時間ほど電車に乗って向かいました。ひと晩経ってもまだ疑っておらず、『なんか変だなあ、夢みているみたいで気持ち悪いなあ』と思ったのを覚えています。それでATMを操作することになったのですが、普段使っているコンビニのATMとは勝手が違うので慌ててしまって、何度か操作を誤ってロックがかかってしまったんです。結果、引き出せなくて、イオン銀行の口座は助かりました」

 この点でも慌てやすい自身の特性に「助けられた」と振り返る。とはいえ、ゆうちょ銀行など他の口座からから金を引き出し、振り込むべく手続きを進めた中井さん。さらに、犯人たちは預金のみならず証券会社などの金融資産にも手をつけようとしたという。

「つみたてNISAも売却してそのお金を振り込むように言われましたし、保険も解約して返戻(へんれい)金を送るようにとも指示されました。さすがにおかしいと思って、『捜査が終わったらNISAや保険は後から復元できるんですか』と聞いたら『できます』と。でも、そんなことできないよな……と」

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