【特殊詐欺の実態】45歳女性はなぜ「総務省の松本」「北海道警の佐々木」を名乗る人物に790万円騙し取られたか

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《神戸市中央区の自営業女性(45)が「警察官らを名乗る男に現金790万円をだまし取られた」と兵庫県警葺合署に届け出た。同署が特殊詐欺事件として調べる》――神戸新聞がこんな記事を報じたのは、2月12日のことだった。被害女性に話を聞くと、ただの詐欺事件では済ませ難い切実な事情があった。『売る男、買う女』(新潮社)などの著書があるノンフィクション作家の酒井あゆみ氏が取材した。

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 取材に応じてくれたのは、兵庫県神戸市在住の中井優子さん(仮名)である。被害から約1カ月が経った今の心情を次のように語る。

「これまで詐欺のニュースを見ても“おじいちゃんおばあちゃん”の世界だと思っていて、まさか私が騙されるとは……。現実味がないというのが正直なところで、考えると自然と涙が出てきます。私の収入は月によって変わるのですが、多い時で30万円ほど。取られた790万円は老後を見据えた生活資金でした。被害に遭ったことを親にはまだ話せていません」

 実は昨年12月にも千葉県松戸市で同様の事件が起きており、61歳の男性が「北海道警の捜査員」「札幌地方検察庁の検事」を名乗る人物に退職金を含む約3800万円を騙し取られている。中井さんが騙された手口も、まったく同じだ。被害額こそ少ないものの、あやうく数千万円の被害に遭うところだったという。

「総務省の松本」「北海道県警の佐々木」

 中井さんの携帯電話に「総務省通信局の松本」と称する男から電話があったのは2月11日の午後のことだった。

「携帯の機能で“迷惑電話の可能性があります”という表示が出たのですが、間違って出てしまった。『あなた名義の携帯電話番号が東京で不正利用されている』という連絡でした。この時すでに私の名前を知っていたかどうか定かではないのですが、出る時に『はい、中井です』と応じてしまったような気もします。この電話の時はまだ『はあ、そうですか』という感じだったのですが……」

 松本は「警察につなげる」旨を中井さんに伝え、この電話は切れた。そしてその1~2時間後に、今度は「北海道警察特別捜査本部捜査二課の佐々木」と名乗る人物から着信があった。

「最初の電話の時は『私の番号から迷惑メールが大量に送られている』ということだったのですが、今度は『私名義の銀行口座が詐欺に使われていて、億単位の被害が出ている』というんです。半信半疑だったのですが、『身の潔白を証明するために口座を調査する。一度、お金を抜いて調べたいから送金して』と言われてしまって」

 そして誘導されるかたちで、LINEの「警察本部捜査専用アカウント」とのやり取りが始まる。アイコンは“警察マーク”だった。

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