「批判に晒されてもSNSはやめられない」…現役漫画家が明かす「セクシー田中さん」問題に通じる“切実な事情”とは

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新規参入する企業との取引はリスクが多い

 そして、新人が水面下でトラブルに巻き込まれているのが、電子書籍やWEBTOONの隆盛で出版業界以外から漫画に新規参入した企業とのトラブルである。こうした企業はメディアミックスを推進すべく、新人賞を主催して第二の『鬼滅の刃』や『【推しの子】』を生み出そうと躍起になっている。

 もちろん、大多数の企業は出版社のOBを入社させるなどして、既存の出版社よりも手厚いサポート体制を敷いている例があるし、契約もしっかりしていることはほとんどだ。ところが、まったくノウハウもないブラックな企業が参入しつつあるのも事実である。そういった企業は、SNSで手当たり次第に絵が上手い人にメッセージを送り、勧誘していると聞く。そして、いざ仕事を開始すると、常識外れの要求を漫画家にしてくる例があるようだ。

 筆者が聞いた話を列挙すると、まず、ギャラが支払われなかったなどは普通に聞くし、社員が「絵なんて簡単に描ける」と思い込んでいたらしく、完成原稿の描き直しを命じられたという新人もいる。コンテンツビジネスが盛んになり、漫画家が必要とされる時代が到来した。しかしその分、使い捨てのようにされる漫画家も増えてきた印象である。

 著名な漫画家が告発するため、「大手出版社はひどい」と言う印象を持たれがちだ。しかし、筆者が聞く限りでは、出版社ではない企業との取引にはより注意が必要である。とくに、名前を聞いたこともない企業の誘いには安易に乗るべきではないと思われる。なお、この原稿は新潮社のメディアに載っているが、決して筆者は新潮社に忖度をしているわけではないということは、お断りしておきたい。

カウンセリングの窓口を作る動き

 ここに書き出した漫画家のトラブルはほんの一例であり、到底ここには書けない深刻な問題も相次いでいる。漫画家はどうしても閉鎖的な空間で作業をするため、トラブルが起こりやすく、外に出ない時間も長いため、悩みを他人に話しにくい環境にあるといえそうだ。前出のA氏がこう打ち明ける。

「以前、仕事の悩みを抱えて精神科やカウンセリングの窓口に行ったら、『好きだからやっているんでしょう、頑張ってくださいよ』と言われてしまいました。もちろん、漫画を描くことは好きですよ。でも、どうも趣味でやっていることだと思われているのか、真剣に悩みを聞いてもらえない。実際、自分の周りにもそう言われた漫画家はいます」

 せっかくカウンセリングに行ったのに、余計に苦しんでしまった――。こうした問題が続出していることを受け、日本漫画家協会参与を務めつつ、駆け込み寺や情報共有の場となるギルド(互助サークル)の設立を計画しているのが、漫画家の洋介犬氏である。

「僕と有志の漫画家、臨床心理士などで対クリエイターに特化したカウンセラーにお声掛けし、チームを作ろうとしています。そして、内部で情報共有して業界知識を深め、SNS問題への対応の仕方などを教え合えるシステム作りを計画しています。とにかく、駆け込み寺がない現状をなんとかしたいですね」

 日本の文化と言われ、世界にも評価されている漫画。市場が拡大し、漫画家人口が増える可能性が高いからこそ、その根幹ともいえる漫画家をケアする窓口は今のうちに整備される必要がありそうだ。もちろん、漫画家の性格や考え方は十人十色であるからこそ、幅広い考えを受け入れ、真摯に相談に乗ってくれる窓口があれば、何よりも心強い存在になるのではないだろうか。

山内貴範(やまうち・たかのり)
1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。

デイリー新潮編集部

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