メディアはなぜ円安の恐ろしさを訴えないのか 日経平均4万円突破と裏腹の日本沈没の危険性

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円安誘導が日本を滅ぼす

 結論を先にいえば、この極端な円安を是正しないかぎり、物価高も是正されず、われわれの実質賃金が上がることもないだろう。それなのに、なぜ日銀は2013年から10年以上も異次元緩和をやめないのか。そのために生じる内外の金利差が原因で円安に誘導されているのに、日銀の植田和男総裁はなぜ、金融緩和に固執するのか。

 円安で収益が上がっている企業への忖度も、株価の上昇局面に水を差したくないという思惑もあるだろう。しかし、最大の理由は、異次元緩和を通じて日銀が国債を無制限に買い取ってきたことにある。日銀はみずから国債を買い取ることで長期金利の上昇を阻止し、それが理由で日米日欧の金利差が拡大し、円安が進んだ。

 それを続けた結果、日銀は政策転換できなくなってしまったのだ。金利が上昇すれば、大量の国債を抱える日銀は金利が払えず、債務超過になりかねない。また、GDPが増えていないのに歳出を増やし、巨額債務を抱えてきた政府は、利息が急増して予算を組めなくなってしまう。日経平均が史上最高だなどと浮かれていても、日本の実情は八方ふさがりだというほかない

 日本をここまでダメにしたのは、第2次安倍晋三内閣が掲げたアベノミクスである。いわゆる「三本の矢」のうちの「金融政策」として、日銀総裁に就任した黒田東彦氏がゼロ金利政策を打ち出すと、そのころ1ドル80円程度だった円は急降下し、反比例するように輸出企業の利益は増加した。

 それが一時的な策であったならともかく、以来、異次元緩和と称されるゼロ金利政策は10年以上も続けられた。その間、ドルやユーロ建てで商売する企業は濡れ手で粟で収益を上げてきたが、こんな極端な政策誘導をしなければ、円安はどこかで円高に転じる。そこで企業は経営を刷新し、技術を革新し、円高でも収益を上げられる体質にする必要に迫られる。過去、それを重ねてきたから日本企業は強くなった。

 ところが、この10年、だまっていても収益が上がる環境にいた企業は、こうして成長する力を失ってしまった。

 しかし、だからといって現状を続けるのは最悪である。いまからでも輸出企業には、円高の苦行を体験させるべきだ。かわいい子には旅をさせよ、である。その点は、日銀も政府も同じだろう。国債の金利上昇を恐れていれば、結果として、日本はどんどん貧しくなり、負のスパイラルから抜けられない。

 円安を是正してこの理不尽な物価高を解消する。日本の再生は、そこからしかはじまらないと思う。メディアも、そして野党も、そこをしっかり訴えたほうが、国民の共感を得られると思うのだが。

デイリー新潮編集部

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