棋王戦藤井八冠が防衛に王手 敗れた伊藤七段が言及しなかった勝負の分かれ目

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 将棋の棋王戦五番勝負(主催・共同通信社)の第3局が、3月3日、新潟県新潟市の「新潟グランドホテル」で行われ、藤井聡太八冠(21)が挑戦者の伊藤匠七段(21)に105手で勝利、対戦成績を2勝1分けとした。これで藤井は、棋王連覇と八冠防衛、自己記録を更新するタイトル戦21連勝に王手をかけた。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

藤井八冠の「信じられないところ」

 先手は藤井。両者「角換わり腰掛け銀」で午前中に45手も進む早いペースだったが、突然、伊藤の手が止まり、1時間の昼食休憩を合わせて142分の大長考となる。そして伊藤は藤井陣の「3八」に飛車を打ち込んだ。終盤は藤井も慎重に持ち時間(4時間)を使い、その差が縮まったが、先に伊藤が「1分将棋」に追い込まれた。

 ABEMAで解説を担当したのは、この日が30歳の誕生日だった八代弥(わたる)七段(30)。師匠は最年長棋士として奮戦するも先ごろ引退した青野照市九段(71)だ。タイトル歴こそないが、A級に11期も在籍するなどトップ棋士として君臨してきた。

 八代七段はAI(人工知能)が藤井の勝率を7割近くと示した中盤、盛んに「それほど差が開いているとは私には見えない」と話した。さらに「将棋というのは必ずしも最善手を続けていかなくてはならないというものではありません。大きなミスをしないことが一番大事なのですが、プロでも誰でも大きなミスをしますよ。藤井八冠は絶対にそれがないことが信じられないんです」と話した。

優勢、劣勢の見極めが重要

 同じく解説を担当した阿久津主税(ちから)八段(41)も「私たちはAIも参考にして解説しているから、ある程度わかることがある」と話した。確かに解説者は岡目八目であるうえ、最近はAIによる勝率の予測や候補手まで参考にしながら解説できる。

 しかし、当の対局者は違う。自分が優勢なのか劣勢なのか、第三者の客観的な情報が全くない中で戦っている。サッカーや野球なら途中の得点に応じて戦略を変えられるが、将棋ではそれができない。

 将棋は、守るべき時に攻めたら負け、逆に攻めるべき時に守っても負ける頭脳ゲームだ。守るか攻めるかの決断のため、自分が優勢か劣勢かの見極めが重要になる。相手の仕草や表情は参考になるかもしれないが、藤井も伊藤もポーカーフェイス。感情を表すのは損なので、棋士はピンチにもチャンスにも概して「淡々と進めているふり」をしている。

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