「賃上げ」も「リスキリング」も政府主導 岸田流“経済復活策”で生活は豊かになるのか

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 政府が「5年で1兆円を投じる」と表明したことで話題になった国のリ・スキリング支援策。「賃上げ」を実現するための一大事業として期待の声も集まるが、果たしてこれで本当に我々の生活は豊かになるのだろうか。【磯山友幸/経済ジャーナリスト】

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「この春闘の結果が岸田内閣の命運を握っていますから、何としても物価上昇率を上回る賃上げを早期に実現しなければ」

 そう岸田首相の経済政策に深く関与している側近議員は言う。

 厚労省の毎月勤労統計調査では、物価の上昇を除いた「実質賃金」が、最新データがある昨年11月まで20カ月連続でマイナスとなった。岸田内閣発足以降、物価上昇が鮮明になり、見た目の賃金が増えても物価に負ける状況が続いているわけだ。企業収益は改善し、株価も上昇して景気は良くなっていると言われても、庶民の生活は苦しくなる一方で、そんな感覚はない。岸田内閣は「賃金が上がる」と呪文のように繰り返すことで、国民に暗示をかけ、何とか不満爆発を抑えているように見える。それが爆発すれば支持率低迷に悩む岸田内閣はひとたまりもないのは明らかだ。

キーワードは「労働移動」

 では、岸田内閣はどうやって「賃上げ」を実現しようとしているのか。岸田首相が議長を務める「新しい資本主義実現会議」で昨年5月にまとめられ、骨太の方針として閣議決定された「三位一体の労働市場改革」によって、賃上げにつなげていこう、というのが基本的な考えだ。三位とは(1)リ・スキリングによる能力向上支援と、(2)個々の企業の実態に応じた職務給の導入、(3)成長分野への労働移動の円滑化の3つで、これを一体として行うとしている。

 要は労働者が「リ・スキリング」して能力を高めることで、より給料の高い企業に移動する「労働移動」が起きる。企業も「ジョブ・ディスクリプション」を明確にすることで、中途採用を増やし、より優秀な人材を高い給料で雇うようになる、という発想だ。つまり、キーワードは「労働移動」なのだ。

 確かに米国ではより良い待遇を求めて仕事を変わるのが当たり前だ。この流れは、シンガポールや台湾などアジア諸国の企業にも広がっている。シンガポールでは公務員にも年間一定日数の「リ・スキリング」を義務付け、費用は全額、国が負担している。この結果、給料が高いところに転職する「労働移動」が当たり前になっている。人材獲得競争を繰り広げる民間企業も社員教育に費用をかける。さもないとキャリアが磨ける他の企業に転職されてしまうからだ。

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