なぜ日本人は「あの時は仕方がなかった」が好きなのか? 過去の反省よりも正当化に走る「鮫島伝次郎」話法とは

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あの時は仕方なかった

 日本人が大好きな言葉が「あの時は仕方がなかった」と、「最大限の努力はした」である。この2つは過去の過ちを正当化するものであり、かつて大多数が同じような判断をしていた場合、この方便が許されることになる。さらに、当時、そうした判断に異議を唱えていた者への差別やバッシングも正当化される。「あの時は仕方なかった」と。そして、当時の発言や態度を追及されると、歴史を改竄して「後出しジャンケンするんじゃねーよ」と言い出すのだ。

 実にこれは卑怯である。

 筆者(中川淳一郎)は当時から「これはおかしい!」と言い続けてきたのに、貴殿らが忖度ないしは無知・思考停止から言論封殺をしてきたのである。その例を具体的に言うと、ジャニー喜多川氏とジャニーズ事務所従業員による「性加害問題」と、すでに5年目に突入した新型コロナ騒動に関する言論だ。ジャニーズについては1998年、週刊文春が14週間にわたってスキャンダルを報じたものの「しょせんは3流ゴシップ誌が言ってることでしょwwww」的に他のレガシーメディア(笑)は黙殺した。

 なにしろ地上波テレビはジャニーズタレントに頼っている面があったし、大手出版社もジャニーズカレンダーや写真集により多額のカネを獲得していたから頭が上がらなかったのである。スポーツ新聞にしても基本的にはジャニーズ事務所の広報紙のようなものだ。

戦争に賛成する者以外は「非国民」

 時に社内でも「親ジャニーズ」の雑誌と「ジャニーズになんも義理がない」メディアが同居することがあった。私がかつて編集をしていたサブカル雑誌「テレビブロス」はジャニーズの世話になっていなかったため、批判記事を書いたら、役員からクレームが来たほどである。

「テレビブロス」は治外法権的な編集部であったが、版元の東京ニュース通信社のドル箱雑誌「TVガイド」はジャニーズ寄りだった。だからこそ我々がジャニーズを揶揄するような原稿を書いたら上層部から「いい加減にせぇ!」というご注意が来たのである。

 それだけジャニーズ批判というものはメディアではタブー視されていたのだが、今やジャニタレが紅白歌合戦に出ない状況になってしまった。CMでもジャニタレ起用は躊躇する状況になっている。英・BBCが2023年3月18日にジャニー氏の性加害問題を報じたことから、堰を切ったように「知ってたよー」的報道が出て、軒並みジャニーズ切りが開始。これがまさに「令和の鮫島伝次郎」なのである。

 鮫島伝次郎とは、広島の原爆投下を題材とした漫画『はだしのゲン』に登場する町内会長である。主人公・中岡元は太平洋戦争に反対する父を持つ中岡家の三男で小学生。父はどう考えてもアメリカに勝てるワケがないと考え反戦を訴える。だが、当時の日本の空気感では戦争に賛成する者以外は「非国民」とされて糾弾された。

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