「猫にみそ汁」「冬の布団で尿意」 21世紀のことわざを考えてみた(中川淳一郎)

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「猫に小判」「楽あれば苦あり」「雨降って地固まる」などのことわざは幅広く知られていますが、もう2024年です。より、時代に合ったことわざを作り出し、後世に伝えるべきである! となぜか私は無駄な使命感を正月に抱いてしまいました。

 この「21世紀ことわざ」って考え始めるといろいろ出てくるんですよ。まずは「冬の布団で尿意」。年を取ると早朝に尿意で目が覚めることがあります。その時、フワフワで暖かい布団やベッドから外に出て「寒い~!」なんて言いながら冷たい床を歩き、トイレに行くのはちゅうちょするもの。

 この時の選択は(1)諦めてトイレに行く(2)尿意が減るのを待つ(3)一瞬で寝る、の三つがあります。しかしながら(2)と(3)は不可能。結局トイレに行き、小便をすべて出し切るしか解決策はないのですが、ついつい人間ってヤツは(2)と(3)の状態が来ることを期待してしまう。というわけで、「冬の布団で尿意」の意味は「やらなくてはいけないことが分かっているのに問題を先送りにしたり、不可能なミラクルを期待する、現実が見えない様」であります。

 続いては「猫にみそ汁」です。東京農工大・林谷秀樹先生の研究グループによる1990年の調査では、ネコの平均寿命は5.1歳だったそうです。最近は12~18年となっているようで、随分と長生きになりました。

 ネコを飼っている人は「ペットフードを食べるようになったのが大きい」と言います。確かに80年代以前、ネコにはみそ汁をかけた白米を食べさせていました。「アレは塩分が強過ぎてネコの体には悪い。栄養面を考え抜かれたキャットフードの方がいい」とのこと。というわけで「猫にみそ汁」は「悪い結果がもたらされるのが分かっているのに間違ったやり方を続ける」ことです。

 ビッグモーターの保険金不正請求問題で明らかになった「ゴルフボールを靴下に入れて車体をわざと傷つける」行為は、「猫にみそ汁」と言えましょう。あ、同社前社長・兼重宏行氏が「ゴルフを愛する人に対する冒涜ですよ」と言ったように「みそ汁を愛する人への冒涜ですよ」とは言わないでください。

「成人動画で現実を語るあほう」もアリですね。男性向けエロ動画に登場する女優は非常に従順で男がやってほしいことを何でもやってくれる。それこそ変態プレイでも受け入れるワケですが、あんなもん、おとぎ話の世界ですよ。それなのにエロ動画で覚えた知識を実践し、「ちょっと、アンタ何やってるのよ! 痛いでしょ!」なんて激怒されてしまう。

 さらに「昼飲みで酔いが早くなる幻」もアリ。定型句として「昼飲みはすごく酔いが早いね~」がありますが、酒はどんな時間に飲んでも酔っ払うもの。昼だから酔いが早くなる、なんてことはありません。意味としては「錯覚を正しいと思い込む様」。「昼飲むと早く酔っ払うという論文があります! 適当なことを言ってはいけません!」とか言わんでください。何しろ「楽あれば苦あり」と言っても人生ずっと苦しいですわ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年1月18日号掲載

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