ジャニーズ帝国崩壊を象徴する「どうする家康」の失速 2024年は「テレビの予定調和」が壊れる年に?

  • ブックマーク

Advertisement

 前半は、幼くて情けない、新奇性のある家康を演じて、別の意味で話題性があった。中盤からは爆速で老けた割に貫禄がなく、失速した大河「どうする家康」の松本潤。後半はムロツヨシと北川景子がけん引、最終話は小栗旬と寺島しのぶ、いとうまい子頼み。帝国の崩壊と重なり、パワハラや女優びいきもリークされ、アイドル大河の限界と終焉(しゅうえん)の象徴に。

 2023年の帝国の崩壊は、中学校で学んだ「平家物語」の冒頭を思い出させた。まさに春の夜の夢のごとし、いや風の前の塵に同じである。

 テレビ局にとっては転機だ。スポンサー企業は瞬時に手のひら返しで、他事務所の人気俳優に鞍替えしたしね。もうキャスティングで忖度することなく、番組内容のお伺いをたてなくてもいいし、理不尽な謝罪行脚に行くこともない。24年からは暗黙の了解や予定調和をしなくてもいいのだ。

 帝国で栄華を味わい、権力の恩恵にもあずかったが、苛烈な排除を経験し、辛酸を嘗めた草なぎ剛を起用することもできる。NHKはここぞとばかりに独占状態。Eテレや朝ドラの他、「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(12月16日・23日放送)で難しい主役を俳優・草なぎに託して、良作に仕上げた。

 そんなわけで、24年はテレビが少しは変わるんじゃないかと信じている。既にうっすら気配も感じている。

 MEGUMIは22年からドラマの企画・プロデュースを始めた。深川麻衣主演「完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの」、23年は西田尚美&香音主演で「くすぶり女とすん止め女」。テレ東深夜枠だったが、ドラマが描きにくい毒気をしれっと含ませることに成功している。

 要は、テレビ的な予定調和、大手事務所主導の優等生コンテンツを壊せばいい。

 例えば、思ってもいないことを言わされたり、そぐわない意見を封じられたり、コメントを切り取って異なる方向に編集されたり。結局はどの番組を観ても同じ顔ぶれ、毒にも薬にもならないネタの繰り返し。へきえきしているのは視聴者だけでなく、当の芸能人もうんざり……とは言っていないが、それに限りなく近い空気を醸し出している番組がある。「THE TRUTH」だ。松田翔太が企画・出演する架空のニュースショー。「忖度と事情だらけに見えるテレビだが、まだやれる」と低体温で気炎を吐く翔太。

 この番組、スムーズな進行や台本通りの回答、お仕着せの笑いなどの予定調和がほぼない。余白というか言葉の空白に満ちている。翔太は空白が多い。なんならゲストも多い。番宣に来たオダギリジョー(環境活動家パターンで失笑してハマった)も、若者の悩み相談に回答するはずの菅田将暉も余白と空白を駆使。SUMIREは英会話パート以外無言。料理コーナーの雑な料理家(永井若葉)は料理すらしない。テレビではこれを「気まずさ」や「放送事故」と呼ぶが、それこそが狙い。モノ申すテイで申さないのは逆に本心であり、予定不調和という強固な意志を感じさせるからな。

 テレ東のニッチ路線復活。24年も一線を越えてほしい。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年1月4・11日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。