沢尻エリカは舞台「欲望という名の電車」で2月に復帰 演劇記者は「大変な作品を選んでしまった」「杉村春子や大竹しのぶに挑むわけですが」

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エリカ様のカムバック舞台

 2024年、最も注目を集める舞台ではないだろうか。この作品をきっかけに、本格女優として見事なカムバックを果たすかもしれない――演劇界の一部に、衝撃が走った。沢尻エリカが、「舞台」でカムバックするのだ。

「しかも、世界的な名作『欲望という名の電車』のブランチを演じるというのですから、いろんな意味で驚きました」

 と語るのは、ベテラン演劇ジャーナリスト氏である。

 いうまでもなく沢尻は、2019年11月、麻薬取締法違反容疑で逮捕され、懲役1年6月・執行猶予3年の有罪判決となった。これだけだったら、わがままな“エリカ様”の愚行で済んだが、問題は翌年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』に出演しており、すでに10話分を収録済みだったことだ。結局、川口春奈の代役で撮り直しとなり、放映開始が1月5日から19日に延期される前代未聞の事態となる。国民的ドラマに泥を塗ったツケは大きく、早期復帰はむずかしいだろうといわれてきた。

「今回のカムバックは、彼女が所属する事務所の親会社であるエイベックスの松浦勝人会長の仕掛けといわれていますが……」

 と、演劇ジャーナリスト氏は、少々歯に物が挟まったような言い方である。

「『欲望という名の電車』というと、1951年公開、エリア・カザン監督の映画版が有名です。ヴィヴィアン・リーが2度目のアカデミー主演女優賞を受賞し、共演したマーロン・ブランドの出世作となりました。しかし、あの映画は原作戯曲とは、細部がちがうのです。当時のハリウッドには〈ヘイズ・コード〉という厳しい自主規制条項があった。そのため、重要なモチーフがカットされているんです。実際は、もっと過激な、一筋縄ではいかない芝居です。しかもブランチは、名だたる舞台女優が一度は挑戦してみたいと願う、大役です。それを、舞台経験のない沢尻エリカが演じるという。彼女は、たいへんな作品を選んでしまったと思います」

 いったい、『欲望という名の電車』とは、どう「たいへんな作品」なのだろうか。また、映画ではカットされた「重要なモチーフ」とは、何なのだろうか。

作品よりも凄まじい、作者の生涯

「作者のテネシー・ウィリアムズ(1911~83)は、生涯に長短あわせて約60編の戯曲を書いた、アメリカの大作家です。『欲望という名の電車』と『熱いトタン屋根の猫』で、2回、ピューリッツアー賞を受賞しています。ほかに『ガラスの動物園』『地獄のオルフェウス』『去年の夏突然に』『イグアナの夜』などの名作があり、多くが映画化、TVドラマ化されています。アメリカ南部を舞台に、閉鎖的な空気や人間関係から逃れようとする人間を描く作品が多い。同性愛や性的暴行、人種偏見といった題材を取り入れ、時代や国を超越した普遍的な面白さにあふれており、いまでも世界中で上演されています。山場における激しいセリフの応酬や、時には取っ組み合いで盛り上げる作劇術は、他の追随を許しません」

 しかしこの作者は、私生活も一筋縄ではいかなかった。

「父親は酒浸りで夫婦喧嘩ばかりしており、家庭は荒れていました。2歳上の姉ローズだけが理解者で、仲がよかった。ところがこのローズに精神障害の兆候があらわれると、両親は、ロボトミー手術(前頭葉の一部切開)を受けさせる。その結果、ローズは廃人となってしまうのです。ウィリアムズは、この手術を阻止できなかった悔恨に終生苦しみます。そしてローズを一流の施設に入れ、自らの印税の一部が彼女に行くようにし、生涯、面倒を見つづけた。彼の作品によく登場する、きょうだいへの愛情と、親との断絶は、ほぼ“自伝”なのです」

 この姉の一件を契機に、ウィリアムズは酒と睡眠薬におぼれるようになる。そしてさらに重要なのが、彼の“性的指向”だった。

「ウィリアムズは真正の同性愛者でした。関係をもった男性の数は、『テネシー・ウィリアムズ回想録』(鳴海四郎訳、白水社刊)で明かしただけでも、かなりの数にのぼります。《大きな夢を見るようなひとみの、しなやかなからだの青年を見たとたんに、私は、これをのがしてたまるかと思った》なんて記述が次々と出てきます。ホテル・シェラトンを仕事場にし、プールやスチーム風呂で、若者を次々とハントしていた。もっとも長く続いたのがシチリア系の青年フランク・マーローで、ウィリアムズの秘書となり、14年間にわたって公私を支える伴侶となります。ところが、このマーローが1963年にガンで、42歳の若さで逝去してしまう。ショックでウィリアムズは重度のうつ病になり、酒と睡眠薬に加えて、スピード(覚醒剤)におぼれるようになりました」

 その後は入退院を繰り返しながら執筆し、新たな青年とも関係を得るが、往年のような名作は生み出せなかった。1983年、薬物のボトル・キャップを喉に詰まらせた窒息死で72歳の生涯を閉じる。作品よりも、作者の生涯のほうが激しいように思える。沢尻エリカは、そんな作家の作品に挑むわけだ。

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