琴光喜は野球賭博問題で解雇も“強さ”は本物だった…遅すぎた大関昇進が象徴する波乱の土俵人生

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「ここで焦っちゃいかんよ、焦っちゃ」

 エリート街道まっしぐら、順調そのものの啓司の相撲人生の中で、初めての試練だった。ガックリと肩を落とす啓司に優しく声をかけたのは、師匠・佐渡ヶ嶽親方(=先代・元横綱・琴櫻)である。

「なぁ、田宮。力士としてのおまえは、まだ始まったばかりじゃないか。いいか、ここで焦っちゃいかんよ、焦っちゃ」

 学生時代から啓司を熱心に勧誘してきた師匠は、32歳で横綱に昇進し「遅咲きの花」と呼ばれた人物でもある。

 田宮は近い将来、大きな花を咲かせるだろう。もし、それが叶わないようなら、すべてワシの責任だ――。

 それほどまでに啓司の素質にほれ込んでいる師匠は、大きな愛情で啓司を包んだ。

 十両に落ちての再起の土俵で、優勝を遂げた琴光喜は、平成12年九州場所で再入幕。この場所、横綱・曙、3人の大関を倒した琴光喜は、曙と共に優勝争いを演じて、13勝で殊勲賞、敢闘賞、技能賞の三賞を独占する。

「琴光喜の強さは本物だ!」

 翌場所、番付を一気に関脇まで上げた琴光喜は、一躍、「次期大関候補」として注目を浴びることになる。

入幕わずか7場所目で初優勝

 琴光喜の相撲の特徴は、右四つからの一気の寄りである。柔らかな体を相手に密着させ、体重を乗せることで圧力が増す寄り身は、彼の大きな武器となっていた。さらに時には、内無双などの技を器用に織り込むことで、相手力士に警戒心を与えていた。

 平成13年は、春場所、夏場所で連続して技能賞を受賞。「技能派」としても認められる形となったのだが、秋場所でさらに大きな仕事をやってのける。

 横綱・貴乃花は休場、大関・魁皇の綱取りに注目が集まるこの場所、前半戦から存在感を見せたのは、前頭二枚目の琴光喜と前頭筆頭の朝青龍だった。年齢は4歳差ながら、同時期に入門した2人は、先の夏場所で同時に三賞を受賞するなど、上位陣を脅かす存在として互いをライバル視していた。

 若手の2人が優勝戦線を引っ張る形となる中、後半戦で横綱・武蔵丸も相次いで星を落とすなど、10日目を終えた時点で1敗の琴光喜が3敗の朝青龍らに2差をつけた。その後も自分の相撲を取り続けた琴光喜は、14日目に日大の先輩・海鵬を下手投げで下し、初優勝を遂げる。入幕わずか7場所目での優勝は、史上3位のスピードだった。

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