本日「大岡越前」「必殺仕事人」が放送…時代劇俳優としての東山紀之 松方弘樹は「ヒガシはいいよ。足のさばきが」

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藤田まことも褒めた「仕事人」

 一方の「必殺仕事人」は、2007年にスタート。09年には連続ドラマになっている。当時のメンバーは、職場では昼行燈だが実は剣の遣い手の町奉行所同心・渡辺小五郎(東山)、長い針を使う絵師で経師屋の涼次(松岡昌宏=46)、からくり屋の源太(大倉忠義=38)、元締めの花御殿のお菊(和久井映見=53)、仕事人シリーズの“顔”中村主水(藤田まこと=1933~2010)も出演していた。

 随所に必殺の「伝統」ともいえる要素も盛り込まれている。出世とは無縁の小五郎。涼次が悪人に針を突き刺すと、心臓が止まる様子をレントゲンで映し出す。ホストクラブを思わせる遊び場が出てきたり、モンスターペアレントが学問所の先生を追い詰めたりと、現代の社会問題をいち早く取り入れるのも「必殺」らしさ。耳になじんだシリーズの音楽も多用されている。藤田さんは「(東山は)殺陣もセリフもうまいし、教えることなどありまへん」と冗談めかして言っていたが、東山を中心に新しい仕事人たちが作る必殺の世界を楽しんでいるのがよくわかった。

 10年に藤田まことが亡くなった際には、喪失感が大きくて継続については悩んだとも言われるが、以後、メンバーが入れ替わりつつ、近年はスペシャルドラマとして続いてきた。今作では、小五郎、涼次、お菊、リュウ(知念侑李=30)のこれまでのメンバーに、女仕事人・棗(松下奈緒=38)が新たに参戦。流しの仕事人・雪丸(中尾明慶=35)も現れる。「人斬り牛鬼」という辻斬りや橋の工事を巡る不穏な事件が起こり、仕事人の出番となる。

 考えてみると、東山は清廉潔白で裏表なしの象徴のような大岡忠相と、金ずくで人を葬るダークサイドにいて表の顔と裏の顔を使い分ける仕事人、その両極端の役を演じ続けてきたのである。それが可能だったのも、東山の時代劇のキャリアが幅広かったからだろう。

 東山の時代劇歴は長い。

「幸せな世代だと思います」

 1985年、少年隊として「仮面舞踏会」でレコードデビューし、87年の「新選組 沖田総司 愛と青春の時」(テレ朝)に沖田総司役で出演。

 88~92年には、松方弘樹(1942~2017)主演の「名奉行 遠山の金さん」(テレ朝)シリーズに若手同心・水木新吾役で出演している。当時、若手タレントが大御所作品で時代劇の基礎を学ぶというのは、伝統のようなものだった。ここで東山は、松方流のダイナミックな殺陣をはじめ、東映京都撮影所の時代劇の作り方をみっちり学んだ。松方さんに殺陣のうまい後輩について聞いたところ、「ヒガシはいいよ。足のさばきがきれい」と動きのキレのよさを高く買っていた。

 90年にはTBSの大型時時代劇スペシャル「源義経」で義経を演じる。93年には「琉球の風」でNHKの大河ドラマに初主演。旧ジャニーズのタレントが大河ドラマの主役を務めるのは、東山が初めてだった。他にも大河ドラマでは、99年に中村勘九郎(のちの18代目中村勘三郎=1955~2012)が大石内蔵助を演じた「元禄繚乱」で浅野内匠頭を、15年に井上真央(36)が吉田松陰の妹役を演じた「花燃ゆ」で桂小五郎を演じている。

 興味深いのは、91年の年末と92年の正月、2週にわたって放送された「源氏物語 上の巻・下の巻」(TBS)。脚本・橋田壽賀子、プロデューサー・石井ふく子。「渡る世間」メンバーが数多く出演した、前後編で計8時間の大作で、東山は若き日の美麗なる光源氏役だった。ちなみに、その約20年後、生田斗真(39)が光源氏を演じて注目された2011年の映画「源氏物語 千年の謎」では、紫式部(中谷美紀=47)に「帝のお心をとらえるのだ。そなたの筆で」と命じる今を時めく権力者・藤原道長を演じている。

 私個人の中で時代劇の若手イケメントップ3といえば、「沖田総司」「源義経」「浅野内匠頭」で、東山はさらに「光源氏」までも演じた稀有な存在だ。インタビューの際、私が時代劇研究家だと話すと「時代劇は日本の文化ですからね。僕は大先輩の芝居を生で見られたし、役にも恵まれている。幸せな世代だと思います」と語ってくれた。

「僕たちが受け継いできたものをしっかり守っていきたい」と加藤剛、藤田まこと、松方弘樹をはじめ多くの先輩への思いを語り、華やかなキャリアを積んできた東山の引退は、時代劇にとっては痛手だが、まずはそのラストシーンを見届けたい。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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