1日2食に「ここまで落ちたか」 仲間は帰国、タイで「年金暮らしする日本人」が明かす“円安直撃の苦境”

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 つづく円安で、日本からの年金を頼りに暮らす海外ロングステイ組の暮らしはかなり厳しくなっているようだ。タイで暮らし始めて27年、バンコク・ロングステイ日本人倶楽部の世話役代表も務めた細野文彬さん(79)にその実情をまとめてもらった。

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 最近の私のトレンドは、バンコクに雨後の筍のように増えている「なんちゃって寿司」巡り。タイ人経営の寿司屋だ。サクラやモミジの造花で店内を埋め尽くしたり、店頭に鳥居を建てたりと内装はハデハデ……。ネタは欧州産のサケとサバが定番だ。タイ人の好みに合わせて、ネタの上にマヨネーズをべったり塗ったりしているが。

 なぜ「なんちゃって寿司」に行くのか? 安いのだ。しっかり食べ、ビールを飲んでも500バーツから800バーツ。日本円に換算すると2100円から3400円といったところだ。

 ナイトマーケットなどの屋台寿司にも手を出している。1貫5~30バーツ(21円~127円)という完璧なタイ人向け価格だ。「暑いタイで屋台寿司なんて」と眉をひそめる日本人も多いが、背に腹は代えられない。これまで腹を壊したこともない。ネタにウナギも多いが、タイでは安い食材という扱いで、日系寿司店より各段に安く食べられる。先日もウナギとサケだけ12貫をテイクアウトして550バーツ(約2300円)だった。これを自宅に持ち帰り、缶ビールと一緒に……という夕飯だった。

「ここまで落ちたか……」

 我ながら「ここまで落ちたか……」という思いである。以前はときどき日系の寿司屋の暖簾もくぐった。いま、ディナーで食べると1500バーツ(約6300円)ぐらいするだろうか。いまではとても手が出ない。

 円安のせいである。下がりつづける円レートに、最近は1日2食を決行している。それも自炊でと決めているが、ときには寿司も食べたい……。しかし「なんちゃって寿司」や寿司屋台が限界である。

円の価値は約3割減

 私はバンコクでのロングステイをはじめて27年になる。ロングステイというのは、シニア向けの滞在資格だ。条件を満たせば、老後をのんびりタイで暮らすことができる。ただし働くことはできない。多くのロングステイ組は日本から届く年金で暮らしている。

 その人が住むマンションの賃料などによっても変わるが、月の生活費は15万円ぐらいの人が多いだろうか。それを年金で賄うことになる。バンコクにやって来てからしばらくは円高が続き、1998年には1バーツが2.6円に高騰。その後も一時的な円安に見舞われることはあっても、2021年まで、ロングステイ組は円高を享受しつづけたわけだ。ところが2021年の後半から一転して円安が加速し、ここ2年間で大幅に円は価値を下げてしまった。最近のレートは1バーツが4.2円ほどだ。

 そこにタイの物価上昇という追い打ちがかかる。体感で1割以上高くなっている。たとえば、35バーツ(約150円)で食べられた「クイッティオ」と呼ばれるそばは、いまや45バーツ(約190円)。店によっては50バーツ(約210円)を超える。550バーツだった焼肉ビュッフェも100バーツも値上がりした。

 円ががくんと下落し、物価は上昇。つまりバンコクで円の価値は約3割も目減りした感覚だ。仮に月額20万円の年金を受けとっていたとすると、いまや14万円以下の価値しかないことになる。

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