1日2食に「ここまで落ちたか」 仲間は帰国、タイで「年金暮らしする日本人」が明かす“円安直撃の苦境”

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耐えられず帰国する動きも

 私の場合は、年金以外に、日本での預金も使って暮らしていた。その額は生活費の2割ほど。それをたまの楽しみの日系寿司屋の支払いや旅行などに当てていたのだが、それが完全に吹き飛び、生活の“格”を下げる哀れなロングステイ組になってしまった。

 私が参加しているロングステイの集まりも、ここ2年で参加者は3~4割減ってしまった。その多くは収入3割減に耐えられなくなって帰国した人たちだ。昨年帰国したKさん(69)はこう切り捨てる。

「タイは物価が安かったからいたわけで、その差がなくなってきたら、いる意味がないですな。バンコクも物価が上がって、ものによっては日本より高い」

 やはり昨年日本に帰ったTさん(71)はこういっていた。

「これだけ円が下がるとね。それとコロナ禍も大きかった。バンコクには日本語が通じる病院はあるけど、やはり不安。知人の日本人が新型コロナウイルスにかかって、タイの病院で亡くなったとき、そう思いましたね」

 それでも残るロングステイ組もいる。私も含めて、あの円が高かった日々を忘れられないのだ。加えてタイ人の情の深さ、そして海岸線の自然美……。

 歯を食いしばってのロングステイはいつまでつづくのだろうか。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。近著に『僕はこんなふうに旅をしてきた』(朝日文庫)。

デイリー新潮編集部

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