男女の友情は成立する? 世間に違和感を覚える人々を説得力たっぷりに描く「いちばんすきな花」

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「一番好きな花は?」と聞かれて、即答できる人はそんなに多くないのではないか。とりあえず知っている花を挙げるか、逆に奇をてらって誰も知らない花を挙げるか、あるいは「特にない」と答える人もいるだろう。好みが分かれる食べ物や服、映画と違って、花は平和だ。好きな花がかぶることはほぼないし、自分の好みを押し付けたり、人の好みに反論することもほとんどない。親友の好みの花もまったく知らない。回答が十人十色で、その多様性に誰もが寛容。奥の深いタイトルだなぁと思った「いちばんすきな花」の話だ。

「2人組」というシステムがずっと苦手だった男女四人が、ひょんなことからひとつ屋根の下に集まる。違和感を共有して、居場所を獲得する物語。生きづらさとか繊細さとはちょっと違う。枠に当てはめるほうが楽に生きられる世で、疑問や違和感を覚えて心がずっとささくれてきた人々だ。

 男友達が結婚を機に会えないと言い出し、男女の友情が曲解される世の中に不満な塾講師の潮ゆくえ(多部未華子)。本当は超絶おしゃべりなのに、嫌われないよう自制してきたせいで、物足りなさを感じた婚約者(臼田あさ美)が男友達と寝て、破談になった男、それが花屋の息子で出版社勤務の春木椿(松下洸平)。あ、説明が長いね。でも要素が詰め込まれていて面白いの、松下が。このふたりは30代。男女の友情に関しては価値観が違うものの、相手の感性を尊重する聞き上手で、共感力が高い大人である。

 一方、20代のふたりは美形ゆえの悩みを抱えてきた。男友達には勘違いされ、女友達には悩みを理解してもらえない美容師の深雪夜々(今田美桜)。一見社交的だが、八方美人な自分にへきえきし、友人に使い走りにされては孤独に苛まれるイラストレーターの佐藤紅葉(神尾楓珠)。親友がいないのは四人とも同じだが、仕事の分野も、育った環境も、抱えてきたコンプレックスも、負の感情の伝え方も異なる。

 主題は「男女間の友情は成立するか?」だが、淡々と展開する会話劇には「確かに」と思わせる違和感が山ほど。友情を軽視する恋愛至上主義、男女ペアを強要するカップル文化、男女平等や多様性の弊害、社交性や愛嬌が必須とされる人間関係、多数派が正解で常識ととらえる思考、答え合わせと間違い探しの違い……うなるね。四人は面倒臭い人かもしれないが、モヤモヤ×4のカルテットには説得力と謎の浸透力がある。

 他の人物がモヤモヤしていないから対比の妙もある。ゆくえの元友達(仲野太賀)や夜々の同僚(泉澤祐希)は一見無神経に見える多数派。ゆくえの妹(齋藤飛鳥)や椿の弟(一ノ瀬颯)はドライで達観。諦観の多様性ね。

 しかも四人が信頼する女性が実は同一人物と判明。四人が語る印象がまったく異なる美鳥(田中麗奈)だ。都合よすぎるが、これも象徴的。人の印象なんて千差万別だし、複数の顔を使い分ける令和ならでは。キャスティングと選曲のセンスがいいし、「脱・昭和」の風がお台場から吹き始める予感がするよ。いい風だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年12月7日号掲載

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