「増税メガネ」は差別語か? 最近の歴代首相のメガネ率を調査してみると(中川淳一郎)

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 昨年までは「検討使」というあだ名をつけられていた岸田文雄首相に対し、「増税メガネ」という新たなあだ名がつきました。一部調査で30%を割った支持率の低下は人々の怨嗟が元にあるのでしょうが、ネット上でこのあだ名について議論が発生しました。

 それは「メガネ」が差別語に当たるのではないか?との指摘です。メガネは視力の矯正器具であり、それは身体的な障害を抱えていることを意味するからだ、というのがその根拠です。

 これには「確かに……」と思わされました。たとえば以下の単語が使われたら明らかに差別となりますよね。

 車椅子、義手、義足、人工透析、胃ろう、つえ、人工肛門、松葉づえ、ギプス。どう考えても「増税車椅子」なんてあだ名はつけることはできないでしょう。一方、「メガネ」は日用品に近いので、差別ではないと許容される範囲の矯正器具扱いなのだと思われます。

「ドラえもん」に登場する野比のび太は「メガネ」と言われていますし、青春漫画には親分に従う「メガネ君」的キャラが存在する。小学校低学年でメガネをかけている男子児童のあだ名は「メガネ」になったりする。そしていつしか多くの生徒学生がメガネをかけるようになってあだ名としての「メガネ」は成立し得なくなる。

 しかし、岸田氏を表す言葉として「メガネ」が来たのは意外でした。元々裸眼(ないしはコンタクトレンズ?)のイメージがあったのですが、首相になってからはすっかりメガネに。あ、もしかしてメガネ首相が珍しいからわざわざ使われたのか? 最近の歴代首相を振り返ってみましょう。

 菅義偉、安倍晋三、野田佳彦、菅直人、鳩山由紀夫、麻生太郎まではメガネなし。福田康夫でようやくメガネ登場。その前は小泉純一郎、森喜朗と来てその前の小渕恵三がメガネ。そして橋本龍太郎、村山富市、羽田孜、細川護熙、宮澤喜一、海部俊樹と来て、宇野宗佑がメガネ。と考えると、メガネ首相は18人中わずか4人です。それが珍しいと感じられ、あだ名に昇華したのかもしれません。

「メガネ」については「多くの人が必要とする」点でマイノリティーとはいえないので差別にはならないのかな、というのが私なりの結論です。また、視力矯正とは関係のないオシャレ目的の「ダテメガネ」が存在していることも、差別にならないとの判断に傾く理由です。

 さて、ここまでくると男性の場合、「カツラ」がどうなるのか微妙になってきます。女性がカツラやウィッグをつけていれば、それは何らかの病気由来の可能性があり、指摘するのはかなり危険。ただし男性のカツラであれば、もとにあるのは生理現象ともいえるわけで、もしかしたら差別にはならないかもしれない。一応、現在でも男性に対しては「チビ」「デブ」「ハゲ」は差別になるかならないかのギリギリの境界線にあるように思えます。

 しかしながら「メガネ」が岸田氏を表す最大のアイコンになるとは驚きました。私はむしろ芸人の長井秀和氏の声と岸田氏の声が似ているので「増税間違いない!」というあだ名でもよかったのでは、と思うのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年11月30日号掲載

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