「人前であがる人は“ええかっこしい”だ」 作家・百田尚樹が街頭演説で緊張しなかった理由

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日本保守党の街頭演説が盛況

 新聞やテレビなど大手メディアでは取り上げられる機会はあまり多くないのだが、作家の百田尚樹氏がジャーナリストの有本香氏と共に立ち上げた「日本保守党」は、ネット上ではかなりの支持を集めているようだ。同党のXのフォロワーは現在33万人で自民党を抜いたという。

 人気の高さはリアルのほうにも反映されており、百田氏らが行った街頭演説には多くの聴衆が集まった。政策や主張への賛否は人それぞれだろうが、演説で目を惹くのは百田氏の笑いを誘うマシンガントークかもしれない。講演はこなしていても街頭演説には慣れていないはずだが、緊張している様子はまったくない。

 少人数の会議での発表でも緊張する、あがってしまうという人は珍しくない。言いたいことの半分も言えなかった、と悔やんだ経験を持つ方も多いはずだ。

 なぜ百田氏はあがらなかったのか。その「秘訣(ひけつ)」を実はかつて百田氏は著書『鋼のメンタル』で披露している。百田流の「人前であがらない方法」を聞いてみよう(以下、同書より)。

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プライドが高い人があがる

 大勢の前でスピーチをしたり、何かを披露したりする時には、誰でも緊張します。

 でも中には緊張しすぎてしまう人がいます。ひどい時には心臓がバクバクして、声が上ずり、顔は赤くなって、足は震えてくる。話す言葉もしどろもどろになり、頭が真っ白になって次の言葉が出なくなる――これが「あがる」という症状ですが、三省堂の『大辞林』には、「他人の目を意識して、平静でいられなくなる」状態と書かれています。

 人前であがる人は、何とかこれを克服したいと思っているようです。昔から、いろいろと方法が考えられています。「大きく息を吸う」「自律神経と心臓に関わっている左手の薬指を揉む」「筋肉をほぐす」などです。医学的に言えば、副交感神経を刺激してあがる原因となっているノルアドレナリンを抑える効果があるということですが、断言してもいいですが、そんなものはまったく効きません。また昔から、掌(てのひら)に指で「人」の字を書いて、それを呑むという有名なおまじないもありますが、それが効いたという人を見たことがありません。

 そんなことよりも、自分はなぜ「あがる」のかを知る方が大事です。

 あがる原因は至極単純なことです。「人にかっこよく思われたい!」――それだけです。

 自分はあがるけれども、そんなことはまったく思っていない、と言うあなた、それは嘘です。

 あがるのは「人に良く思われたい」「称賛を浴びたい」「上手にこなしたい」という思いがあるからです。身も蓋もない言い方をすれば、「ええかっこしい」なのです。要するに「人にどう思われるか」という自意識が強すぎるのです。自分と他者とを明確に分けて比較する関係と見做しているからです。だから、自意識が芽生えていない幼児には、あがるという症状はありません。もうひとつ、プライドが異常に高いのも原因のひとつです。「素晴らしい自分を見せたい」「高く評価されたい」という気持ちが強すぎて、それが失敗に終わる恐怖と不安が大きく膨らむのです。

 不思議なのは、そういう人はふだんの生活ではまったくそんなふうに見えないことです。どちらかといえば、目立たない、積極的に前に出ない、おとなしいタイプの人が多いようです。

 ですから、私はそういう人が人前であがっているのを見ると、「ああ、この人はふだんはおとなしくて目立たないけど、本当はすごくプライドが高くて、目立ちたくてたまらなかった人なんだな」と思います。意外なところで、その人の本当の姿が見られるのは面白いものです。

スピーチは場数とテクニック

 私は目立ちたがりを批判しているのではありません。なぜなら、私も人一倍目立ちたがりだからです。ただ私の場合は、講演で喋る時も、スピーチする時も、テレビ出演する時も、まったくあがりません。その差はなんだ? と訊かれれば、「場数」と答えます。それから、話すテクニックです。

 人前で面白く話すのに、人間性は関係ありません。必要なのは、ただ喋りのテクニックです。ですから、そういう場数を踏んでいなくて話術も磨いていない人が、人前で皆を惹きつける面白いスピーチができるはずがないのです。少し強引な喩えですが、落語のネタは熟知していても練習したことのない人が、いきなり人前で演じても笑いを取ることができないのと同じです。

 だから、スピーチは「上手に」「恰好よく」「スマートに」やる必要はないのです。それにあなたが思っているほど、他人はあなたのスピーチに期待してはいません。面白くて素晴らしい話が聞けると、胸を膨らませてわくわくはしていません。

 スポーツの試合や演奏の発表会も同じです。あなたはマイケル・ジョーダンでも錦織圭でもありません。またマルタ・アルゲリッチでも五嶋みどりでもありません。聴衆はあなたのプレイに最高レベルのパフォーマンスを期待してはいません。「下手くそだけど、自分のできる限りのものをやろう」と思えばいいのです。

 要するに、あがる人は「実は自分はええかっこしいだったのだ」と気付くだけで、かなり楽になると思います。

笑顔と間を大切に

 でも最後に、人前で喋る時にあがる人のためのちょっとしたテクニックをお教えしましょう。それは壇上に上がった時、あるいはマイクを握った時に、慌てて喋り出さないことです。第一声を発する前に聴衆の顔をゆっくり見て、にっこりと笑ってみてください。それだけで聴衆の空気が変わります。実は意外に皆気が付いていないのですが、大勢の前で誰かが喋る時は、聴衆もわずかに緊張しているのです。演者の緊張は聴衆の緊張をさらに高めます。そしてそれはまた演者にも跳ね返ってきます。

 でも演者の笑顔はその緊張を解きます。そうするとどちらとも落ち着くことが出来ます。あとは恰好よく喋ろうとは思わないで、伝えたいことを誠実に真面目に話せばいいのです。それから、大切なのは「間」です。人前で喋り慣れていない人は、「沈黙」を恐れます。それで切れ目なく喋ってしまうのです。私は講演でもスピーチでも早口で速射砲のように喋りますが、実は「間」を非常に大事にしています。早口であるほど「間」が大事なのです。他にも細かいテクニックはいくつもありますが、この本のテーマではないので、ここでは省きます。

 でもそんな小手先のテクニックよりも、「どうせ、そんなに上手くは喋れない」から「いい恰好をするのはやめよう」と気持ちを切り替えることが、あがるのを防ぐ何よりの方法です。

 実は、それこそが本当の「強い心」なのです。

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 次に人前で話すときに試してみてはいかがだろうか。