どうした月9! 今期ワーストドラマ「ONE DAY」失敗の理由を考察してみる

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 クリスマスイブのたった1日を連ドラで描くというぜいたくな構造。豪華俳優陣を集め、大風呂敷を広げたものの、初回から「なんじゃこれ?」。殺人容疑の逃亡犯と地方局のキャスターと老舗洋食店のシェフ、三者三様のてんやわんやな1日を映し出し、次第にリンクしていくらしいのだが、興味をもてる場面がひとつも見つからず。1日どころか1時間ももたずに停止ボタンを押したのが、今期ワースト「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」だ。秋ドラマは作品数も異様に多いので無駄な時間をとりたくない。「後でまとめて」枠へ。

 原稿を書くために改めて観直してみたが、なぜか気をそぐ。気を散らせる。

 熱血報道キャスターを中谷美紀、記憶喪失で不機嫌な逃亡犯を二宮和也、うんちくをしゃべり続けるシェフを大沢たかおが演じ、それぞれの舞台を時間経過とともに映し出すのだが、場面転換がせわしないから? いや、言うほどでもない。むしろ無駄に長回しもある。横スライドのカメラワークへのこだわりだけは感じる。アクションも唐突に入ってきて、流行のパルクールをやりたいのね、という情熱だけは感じる。名優をそろえてすべり倒す小芝居を展開するのは、コメディーパートをアクセントにしたいのね、と意気込みだけは感じる。

 でも、感情を寄り添わせたいと思う人物はひとりもいないし、考察班が出動するほどの謎もない。弱小報道番組に同情もわかないし、「記憶喪失」「天才的な記憶力」という手垢のついた禁じ手を何の工夫もなく同時に使う節操のなさにも口あんぐり。最も喫緊の課題(なんと食材が全滅)を抱えたレストランが長尺コント劇場になっているのも、喜劇を通り越して悲劇になっとる。「何がどうしてそうなったん!?」、略してNDSだ。

 視聴者がついていけずに次々と脱落していくのに、登場人物が出てくるコラボCMすらもこの延長線上で、混乱としか言いようがない。フジテレビ系の他のドラマが軒並み面白くて挑戦的、あるいは見逃し配信の再生数が多くて話題の作品もあるだけに、月9の失敗が著しく悪目立ちする結果に。

 やりたいことやこだわりが多すぎて、船頭多くして船山に上ったのか? パートに分業した結果まとまらなくなったのか? まとめる人に単純に力がないのか? 机上では面白くても映像化で失敗したのではないか? いずれにせよ、NDSの真相を知りたい気もする。そこにジャニーズ帝国絡みの闇があるなら曝け出したほうがいいし、そうでないなら「これはイケる」と思った人に極寒の冬を過ごしていただきましょう。

 タバコの吸い方からたたずまいまで、役に入りきっていいなぁと思った江口洋介はあっという間にひき逃げされとるし、佐藤浩市がまるでボケ老人のように描かれているのも納得いかない。赤い服に嫌な予感も。まさか浩市がサンタクロース的なファンタジーで片付けるんじゃないだろうな。すご腕アサシンならまだしも……ってことで、月9は私の「はけ口」枠。心の針供養にご協力いただき、感謝します。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年11月16日号掲載

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