コンプラへの配慮不要のSFラブコメ「時をかけるな、恋人たち」 ヨーロッパ企画の継続力にも拍手

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 ドラマ界では、恋愛が面倒臭い案件になって久しい。世代間で激しく分かれる価値観、漫画なら許される表現も実写では生々しすぎてアウト、好意と同意の壁、男女限定で描くと狭量になる、むしろ恋愛要素は不要とも言われてしまうわけで、作り手的には「あー、もう配慮がめんどくせぇ!」と思うのではないだろうか。

 そんな問題を逆手にとって、というか、ある要素を加えてあまり深く考えないよう仕向けたドラマがある。

「時をかけるな、恋人たち」である。同じ時代だと齟齬(そご)と摩擦が起こるが、時空を超えていれば「あ、そうっすね」と妙に納得しちゃう。考察だの配慮だのと深く考えるほどでもないライトテイストで、SFラブコメはとても平和だなと思わせる。

 舞台は現代。広告代理店勤務の常盤廻(めぐ・吉岡里帆)は、仕事上のつじつま合わせが得意。密かに思いを寄せていた後輩男子(西垣匠)が受付嬢と結婚すると知り、ひどく落ち込む。そんなとき、2253年から来た未来人・井浦翔(永山瑛太)と遭遇する。

 未来人の違法タイムトラベルが横行。翔はそれを取り締まるタイムパトロール隊の隊員だが、実は過去に廻と恋仲になったことがあるという。現代人と未来人の恋はご法度。見つかれば強制的に記憶を消され、未来人は未来へ強制送還される。廻は記憶をすべて消されているため、妙になれなれしく近づいてくる翔に警戒心を抱くも、翔の手はずでパトロールの仕事を期間限定で手伝わされることに。

 いや、何がおかしいって、瑛太が未来人という説得力。あえてつんつるてんの服を着て、手足の長さをより強調。言動のうさんくささで未来人テイストをさらっと体現。吉岡の塩対応にもくじけず、恋心を貫く一途さもある。

 ふたりの恋模様がメインではあるが、毎回登場する違法トラベラーたちの恋模様も見どころだ。現代人の歌手に恋をして支えた未来人(泉澤祐希)、教師に恋をして現代に駆落ちした未来人(南出凌嘉)、現代人のホスト(吉村界人)に恋をした未来人(清水くるみ)。違法と知りながらも「止められない純粋な恋心」を描く。

 廻は恋人たちを守るべく、時空のつじつま合わせを提案。無事結ばれた恋人たちのその後はエンディングで流れる。心の汚れた私でも、ふんわりハッピーエンドにはちょっとホッとするのよね。

 しかし、ヨーロッパ企画の継続力はすごい。タイムトラベルなどの「超時空ネタ」を20年強ずっと作り続けている気がする。セットや道具が少しは進化してもよさそうなものだが、親近感のあるポップ&チープをあえて選ぶ奥ゆかしさ(予算のなさ)。でも金をかけるとこはかける。「フリントストーン」風味のオープニングアニメもかわいい。

 パトロール隊の面々(石田剛太、シソンヌじろう、伊藤万理華)が今後はぴりっと薬味になりそうだし、翔の厄介な婚約者(夏子)も強烈な存在感を残している。

 純粋な恋心を禁じたり、疎んじたりさげすんだりする傾向にささやかに抵抗。許されぬ恋をしている人を密かに応援するドラマでもある。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年11月9日号掲載

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