Jリーグ30周年 元サッカーダイジェスト編集長が選ぶ「思い出のゴールベスト10」芸術的ループシュートも

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久保竜彦の貢献

 試合は前半が終わった段階で磐田と鹿島が1-0でリードし、市原は0-0だったため上位2強に変動はなく、横浜FMが4位へ後退した。ところが、後半30分過ぎ、磐田1-1横浜FM、浦和1-2鹿島、東京V0-2市原と、下位チームが反撃に転じる。

 そして後半3分のロスタイムに突入した直後のことだった。横浜FMのGK下川健一のロングキックを、前線に残っていたDF松田直樹(故人)がつなぐと、ボールは磐田ゴール前で大きくバウンド。このルーズボールに襲いかかったのが、広島から移籍したFW久保竜彦だった。

 ヘッドでクリアしようとしたDFの背後から、身体半分ほども高くジャンプしてGKの頭越しに無人のゴールへ決勝点を流し込む。まるでストップモーションを見ているかのような、滞空時間の長い美しいヘディングシュートだった。

 磐田が敗れたとの情報は、埼玉スタジアムで戦っている鹿島ベンチにも入った。必死の逃げ切りを図ったが、こちらもロスタイムにFWエメルソンにゴールを許して2-2のドロー。勝点26で横浜FM、市原、磐田の3チームが並び、鹿島は4位へ後退した。久保はこの年、16ゴールで横浜FMの完全優勝に貢献した。

ストイコビッチの一撃

「歴代Jリーグ・ベストゴール10」も残すところ1ゴールとなった。ここまで絞るのにも苦労したが、ラスト1となるとさらに頭を悩ませる。

 そこで参考にしたのが「J30ベストアウォーズ」で「ベストシーン」に選ばれた、名古屋グランパスエイトのピクシーことMFドラガン・ストイコビッチだ。

 選ばれたプレーは94年9月17日の第11節、長良川競技場で行われたジェフ市原との雨中での一戦。当時の名古屋のホームグラウンドはどこも水はけが悪く、長良川も雨が降ればピッチのあちこちに水たまりができていた。そこでストイコビッチは、つま先でボールを浮かせると、リフティングでボールを運んでから前線にパスを出した。

 そんなストイコビッチのシュートで印象深いのが、09年10月17日の第29節、横浜F・マリノス戦で披露した一撃だった。

 1-1で迎えた85分、横浜FMの選手が接触プレーからゴール前で倒れたためGK榎本哲也が名古屋のベンチ方向に向かってボールを大きく蹴り出した。ここまでは選手が負傷した際によく見られる光景だった。

 GK榎本の蹴ったボールは名古屋ベンチを目がけて飛ぶ。するとストイコビッチ監督はベンチから出てきて右足ダイレクトで蹴り返したのだ。スーツ姿の革靴から放たれたボレーシュートは大きな弧を描いて横浜FMのゴールに決まり、度肝を抜かれた観客は大歓声をあげた。しかし、主審は侮辱行為とみなし、ストイコビッチ監督にレッドカードというまさかの退場処分を下したのだった。

 以上、私なりに選んだ「Jリーグ30周年ベストゴール10」である。もちろん異論がある方はいるだろうが、こうして振り返ってみるといずれも歴史に残るゴールシーンではないかと感慨深いものがある。今シーズン終了後は、自分なりの「ベストゴール10」を発見してみてはいかがだろうか。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

デイリー新潮編集部

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