破裂すれば「くも膜下出血」…「脳動脈瘤」の手術、開頭とカテーテルの長所と短所を名医が解説

ドクター新潮 ライフ

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成人の2~6%が罹患する脳動脈瘤

 脳疾患の1つ「脳動脈瘤」は、脳内にある幅数ミリの動脈にコブ状または紡錘状のふくらみが生じる病気だ。罹患率は成人人口の2~6%と、決してまれな病気ではない。特に40歳を過ぎた中年層で、高血圧を抱えている人や脳動脈瘤の家族歴がある人は罹患リスクが高いとされる。

 脳動脈瘤にはさまざまな形や大きさのものがあるが、その状態によって名称は異なる。脳動脈瘤が破裂した(破れた)場合は、「脳卒中」の1つである「クモ膜下出血」だ。

・未破裂脳動脈瘤:ほとんどが無症候性で、破裂していない。破裂するとクモ膜下出血になる
・嚢状動脈瘤:主に動脈の分岐部に発生し風船のような形をしている。3mm以上で破裂の可能性がある
・解離性脳動脈瘤:動脈の壁内に血流が入り込むことで、壁が解離し、動脈全体が膨らむ

 昭和大学病院(東京都品川区)の脳神経外科では、同大医学部・脳神経外科学講座の水谷徹主任教授が毎週月曜日の午後、脳疾患(予約外来)の相談を受け付けている。

「どんな診察や治療を希望するのかといった問診から始めて、もし手術の場合は図を書いて丁寧に説明します。手術において、私はまず安全、そして確実、さらに無血の術野が何よりも大切と思っています。脳神経外科内でもそういう手術を目標としています」

 水谷主任教授はこれまで脳動脈瘤、頚動脈内膜剥離術、良性脳腫瘍を中心に、1万1000件(2023年9月現在)を超える手術を主導してきた。手術では左右の手を同時に連動して正確に動かせる技量を持ち、最長15時間の手術を実施したこともある。脳の手術件数の多さでは世界のトップレベルで、血を出さない無血手術が可能な「神の手の持ち主」とも称される人物だ。

「開頭クリッピング術」と「脳血管内治療」

 水谷主任教授によると、脳動脈瘤の手術法には「開頭術」と「脳血管内治療」の2つがある。

「開頭術の中心となるクリッピング術は、頭部の皮膚を切開して頭蓋骨の一部を外し、動脈瘤の根本(基部)を長さ10ミリ程度のチタン製クリップで挟んで(クリッピング)血液の流れを遮断する手術です。脳動脈瘤の発生場所や形状によって難易度は異なりますが、施術時間は平均で4~5時間です。髪の毛はほぼ切りません」

 対して、脳内血管治療は開頭せずにカテーテルとデバイスを用いる。このデバイスとは、脳動脈瘤の中(血管の中)に留置する医療機器のことだ。コイル、ステント、フローダイバーターステント、パルスライダー、ウェブなどの種類がある。

「鼠径部(脚の付け根)の動脈から直径1ミリほどのカテーテルを挿入し、動脈瘤まで到達させ、コイルを詰め込んでいきます。動脈瘤の形状などに応じて、コイルが落ちてこないよう血管に留置する網状のものがステントです。またステントは動脈瘤への血流方向を変えたり、制限したりする役割もあります。施術時間は早い場合で約1時間。脳の治療で血を一滴も流さないこの治療はとても有益です」

 開頭クリッピング術は1937年に世界で初めて実施され、日本には1970年代から導入された伝統的な手術法である。一方、脳血管内治療はまだ歴史が浅い。日本では20数年ほど前から実施され、このところ急速に普及している。

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