京都の中心部「田の字」地区で、ペンシルビルやコインパーキングが目立つ「残念な理由」

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 地図を見ると一目瞭然なのが、京都の中心部に走る街路が垂直に交差し、碁盤の目のような街並みになっていること。北大路、東大路、西大路などの名称からあたかも平安京以来の道路という印象を与えるが、実はそれらの道路が建設されたのは大正から昭和にかけてだという。

 それはさておき、北を御池、南を五条、東を河原町、西を堀川の通りで囲まれた京都の中心部を「田の字」地区という。烏丸通と四条通が矩形の中心を貫き「田」の字をかたどるからである。いわば京都の一等地にあたるはずだが、なぜかペンシルビルやコインパーキングの存在が目立つ。

 いったい、なぜこのような街並みになってしまったのか。京大名誉教授で、京都に半世紀以上かかわってきた有賀健氏は、新刊『京都―未完の産業都市のゆくえ―』(新潮選書)で、その理由を考察している。同書の一部を再編集してお届けしよう。

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規制上限の50%程度の容積率

 京都は街路や建築物の姿から見ても他の主要都市には見られない特徴を持っている。明治末期から昭和初期に完成した主要街路が現在でも市の道路網の骨格を形成している。

 市の中心部では、これらの主要街路を除くと、道路はその殆どが1車線の一方通行である。街路が狭隘であるのは、それだけ低層の家屋やビルが密集しているのと裏腹であり、主要都市の中では最も厳しい容積率限度に比べても、実際の容積率は中心部で規制上限の50%程度に過ぎない。

異常に少ないオフィスビル

 また寺社地の比率が高く、中心部にも住居が密集し、且つホテル、旅館、レストランなどの施設比率が高いため、京都市の中心部でのオフィスビルの占有率は異常に小さくなっている。

 バブル崩壊後のマンション建設、近年のホテルブームに押されて賃貸オフィスビルの新築は市の中心部では殆どなく、結果的に京都は他都市に例を見ないほど、オフィススペースの不足が常態化している。

「古びた」町という印象

 一口でいえば、京都は都心部の高度化を促す産業集積が他の同規模都市に比べても未発達で、相対的に飲食店や宿泊施設の比率が高い。

 高度化を促す第一の要因はオフィス需要であるが、上に述べたような背景もあって、都心にオフィスを構える需要が京都の産業には大きくなく、阪神経済圏がすぐ近くにあるため、福岡や札幌のような支店オフィス需要も小さい。

 高層ビルの少ない京都では、前面の通りからセットバックされたビルが少なく、歩道部分が狭く、高層ビルが目立たないにもかかわらず、道路とビルに挟まれて圧迫感が強い。京都は単に歴史的な建造物や町家が多く残るだけでなく、上のような経緯を背景として、高度成長期に建設された多くのビルの建て替えも進まないという両面で、「古びた」町という印象を与えることになっている。

景観論争が話題になる場所は?

 京都は周辺部を東山、北山、西山に囲まれ、その裾野部分が殆ど風致地区に指定されている。そのため、市街化部の景観がどう変化するかは、縦横の街路で区切られた矩形の町並みから成る中心部がどのように変化を遂げるかに大きく依存するといえる。

 京都の景観を巡る様々な係争や議論が、市内中心部、いわゆる「田の字」地区に集中したのは、この地区がブロック単位で再開発や建て替えなどを行うことが極めて困難であったことが要因の一つである。

目立つペンシルビルやコインパーキング

 ちなみに「田の字」地区とは、北を御池、南を五条、東を河原町、西を堀川の通りで囲まれた地域を指す。烏丸通と四条通が矩形の中心を貫き「田」の字をかたどるのでこう呼ばれる。短冊状の一筆単位で建て直されるために、多くのペンシルビルや、歯抜け状になった多くのコインパーキングの存在が目立つ。

 その背景には田の字地区の大半が都心であるにもかかわらず、個人所有の住居から構成されるという京都固有の状況がある。更に重要なのは、この田の字地区の住民こそ京の町衆の代表であり、京都の政治・社会の動向に決定的な影響を与えてきた人々だということである。

市内中心が雑然とする理由

 京都の景観保護政策の厳しさは全国一であり、景観保護の努力に敬意が払われることが多い。それでも、特段の工夫をすることなく、田の字地区では現存の町家を取り壊し、建築基準・規制に従い、4~5階建て15m程度の共用住宅あるいはオフィスビルを建設することで、個人にとっては巨額ともいえるキャピタルゲインが発生する。

 主要道路に面する土地と合筆して建築することが出来れば、31mの高さまで許容されるから、そのキャピタルゲインは更に大きい。市内中心部がまとまりなく雑然とした印象を与えてしまうとすれば、その少なからぬ部分はこのような建築基準や規制の変遷と個々人の利害の複合的な結果でもある。

※有賀健『京都―未完の産業都市のゆくえ―』(新潮選書)から一部を再編集。

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