「野球U18W杯」初の世界一でも喜べない…「U18侍ジャパン」を仕切る高野連の“縦割り主義”

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世界の強豪相手に投手陣が活躍

 9月10日、U18W杯で初優勝を果たしたU18侍ジャパン。現在のように全国から選手を選抜して出場したのは、2004年が初めてで、これまでダルビッシュ有(東北、現パドレス)、大谷翔平(花巻東、現エンゼルス)、佐々木朗希(大船渡、現ロッテ)ら、後にプロで活躍する選手が多く出場してきた。それでも成し遂げられなかった「世界一」を若き侍が見事に成し遂げた。【西尾典文/野球ライター】

 大会前には、野球ファンや関係者の中では、今回のU18侍ジャパンを不安視する意見が多かった。なぜなら、佐々木麟太郎(花巻東)や真鍋慧(広陵)らスラッガータイプの選手がメンバーに選ばれなかったほか、8月28日に行われた大学日本代表との壮行試合ではわずか3安打に抑えられたからだ。しかし、終わってみれば、終わってみれば“日本の強み”が目立った。

 特に、投手陣の活躍が素晴らしかった。前田悠伍(大阪桐蔭)は米国、韓国、そして決勝の台湾と強豪を相手に快投を披露。東恩納蒼(沖縄尚学)も3試合、11回を投げて被安打1、失点0とほぼ完璧な投球を見せた。

 心配された打撃陣は、緒方蓮(横浜)が5割を超える打率をマークしてMVP、首位打者、最多得点、ベストナイン(セカンド)の四冠に輝く大活躍。また、大会前の馬淵史郎監督(明徳義塾監督)の「バントをできる選手を選んだ」という言葉通り、決勝ではバントで相手のエラーを誘い、逆転に成功した。

 馬淵監督が採用した戦術は、今年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝を果たしたトップチームが、ホームランや長打で、強豪国に打ち勝った戦術とは対照的だ。こうした「スモールベースボール」に賛否両論があったが、馬淵監督が長年、明徳義塾で築き上げてきたスタイルを貫いて、世界一を掴んだことは見事という他ない。揮官の期待に応えた選手、サポートしたコーチやスタッフも称賛に値するだろう。

夏の甲子園からU18W杯までの準備期間が短い

 しかしながら、もう少し大きな視点で見たときに、U18侍ジャパンは、様々な問題を抱えているのも事実だ。

 筆者が指摘したい問題点は、監督やコーチの人選と選手選考のプロセスである。馬淵監督をはじめ、岩井隆コーチ(花咲徳栄監督)、小坂将商コーチ(智弁学園監督)、比嘉公也コーチ(沖縄尚学監督)、葛西徳一アシスタントコーチ(弘前東監督)、加藤勇次アシスタントコーチ(酒田光陵監督)は、いずれも現役の高校野球部の監督であり、大会期間中は自チームを離れることになる。指導者として、代表チームに選ばれることは名誉なことかもしれないが、当然、それだけ負担が大きい。自チームへの影響を考慮して、代表チームへの選出を嫌う指導者もいると聞く。選手選考やチーム強化の視点から考えると、“兼任”は望ましいことではなく、“専任”の首脳陣を置き、現場の指導者は、アドバイザー的な役割にとどめるべきだろう。

 選手選考については、誰を選んだかというより、選考のプロセスに問題を感じている。U18侍ジャパンに選出された選手は、夏の甲子園に出場した選手が中心で、U18W杯までの準備期間が短く、体への負担が大きい。甲子園決勝が終了した日が8月25日で、U18W杯の開幕日が9月3日。非常にタイトなスケジュールである。

 夏の甲子園で最多の6試合を戦った仙台育英からは4人が選ばれていたが、いずれも目立った成績を残すことはできなかった。その一方で、投打の中心として活躍したのは、前田や緒方、木村優人(霞ヶ浦)、寺地隆成(明徳義塾)ら、夏の甲子園に出場していない選手だった。必ずしも、選手の実力やコンディションを重視した選考になっていない。

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