鈴木誠也、秋広優人を育てた二松学舎大附高の監督が語る「慶応高校野球」 「監督は自己嫌悪の連続。自主性を重んじるチームは羨ましい」

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長髪か丸刈りか

 市原監督は1965年3月生まれ。二松学舎大附高の野球部に入り、3年時はエースとして春のセンバツで準優勝に輝いた。卒業後は日本大学の野球部を経て、社会人野球のNTT信越に進んだ。

 引退後、母校・二松学舎大附高のコーチを経験し、わずか31歳の若さで監督に就任した。監督になって27年の歳月が流れたことになる。

「ウチの特徴は“型”がないということですかね。大事なものは引き継ぐ、いいものは取り入れる。今年の夏の甲子園で長髪が話題になりましたが、『そういえばウチは丸刈りだったな』というくらい気にしていませんでした。丸刈りの強制も問題なら、長髪の強制もおかしいでしょう。丸刈りのほうが頭部に熱がこもらないので熱中症対策になるという意見もあります。とはいえ、全員が丸刈りの部員を見ると、僕自身がギョッとすることもあります。髪型の問題は『監督が独りよがりになっていないか』という視点から考えたいですね。部員が長髪を望んでいるのか、丸刈りがいいと思っているのか、僕と部員の意思疎通がしっかりできているかを判断するために重要だと思います」

 二松学舎大附高の野球部は自主練習を重視し、朝練もない。雨天練習場もない。つまり、練習時間は比較的短いことになる。

「慶応が特別で独自の練習方法を編み出したというわけでもなく、同じような練習方法を取り入れている学校はいっぱいあるんです。慶応の優勝で世論は非常に盛り上がりましたから、『従来型の高校野球に一石を投じました』といった受け止めも多かったと思います。ですが、現場の人間としては『以前から従来型の高校野球に対する批判はあったし、改革の動きも盛んだよなあ』という感想を持ってしまいます」

成功体験の差

 高校野球の世界で“改革”は着実に進んでいるというわけだ。とはいえ、慶応の“モノマネ”をしようとしても、できない高校は少なくないという。

「その高校にどういう生徒が来るかということは無視できません。1回説明すると分かる子なのか、5回、6回と言わないと分からない子かということですね。慶応の野球部に入部できる子は経済的に恵まれているとか様々な報道がありました。でも、僕は『きっと成功体験を繰り返してきた子なんだろうな』という点に注目しています。小学生から義務教育は始まるわけですが、日々の積み重ねで成功と失敗に分かれてしまいます。まして受験ともなると、合否が鮮明になってしまいます」

 成功体験が多く、基本的には上手くいくことをイメージできる野球部員と、成功体験に乏しく、いつものように失敗してしまうのではないかと不安を感じる野球部員では、プレーの内容が全く違ってくるという。

「チャンスを迎えると僕はサインを出します。成功体験の多い子は僕を見ながら『バントでもエンドランでもできるからサインを出してくれ』と目を輝かせます。ところが、成功体験に乏しいと、サインが出る前から緊張している。ウチに来るのは成功体験が豊かな子が多いですけど、中には『色んな人に怒られてきたんだな』という子もいます。こういう子に成功体験を味わってもらうのは、なかなか難しいですね。ただ、僕はウチに来る子を指導するのが合っていると思っています。慶応のように最初から自信一杯の子にバントのサインを出したらどうなるのかと想像することがありますが、きっとうまく指導できないでしょうね」

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