初サンマ1匹“2万5000円”で「大間のマグロ」超え…大衆魚が“高級魚”になった深刻すぎる裏事情

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市場関係者を驚かせた「大物食い」

 庶民の味だったサンマは、もはや高級魚か――。東京・豊洲市場(江東区)に今シーズン初めて入荷したサンマに“1匹2万5000円”という過去最高値が付いた。歴史的な不漁が続く近年、価格は高騰し、サイズも小型化。安くておいしい、脂の乗った大きなサンマは幻になりつつある。【岡畠俊典/時事通信水産部記者】

 豊洲市場でサンマの「初荷」を祝うのぼり旗が並んだ8月21日朝、水産関係者に衝撃が走った。例年より1ヵ月以上遅くお目見えした初物が、1キロ当たり20万円と同市場で過去最高値を付けたのだ。昨年(1キロ当たり12万円)を超えただけでなく、今年1月に行われた初競りの青森県大間産「一番マグロ」(同17万円)さえも上回ったことに、関係者も驚きを隠せなかった。

 1匹当たりの価格でも、約125グラムの初サンマが2万5000円と異例のご祝儀相場だ。今年の一番マグロ(212キロ)の約3600万円に比べるとはるかに低いが、市場では基本的に、魚の評価は1キロ単価。つまり、キロ単価が高いほど、評価や価値が高い魚というわけだ。手頃な大衆魚のイメージのサンマが、「黒いダイヤ」と呼ばれる最高級クロマグロのキロ単価を逆転。しかも、小ぶりで脂乗りもいまひとつのサンマなのに、たっぷりと脂を蓄えた大型マグロよりも高く評価されたのだ。

 これまでも、高級魚のマダイやヒラメ、ノドグロなどをしのぐ高値を付けてきた初サンマ。市場ではマグロを「大物」(おおもの)と呼ぶが、マグロ漁の餌にも使われていたサンマの「大物食い」が起きた。これは、慣れ親しまれた秋の味覚の底力なのか。

「サンキュー価格」でありがとう

 実は、最高値がつけられた背景には、漁業者を応援したいとの思惑があった。それが卸値に反映された「39万円でサンキュー価格」。初物として高値を付けたのは、冒頭で触れた1キロ当たり20万円と19万円の2箱で、計39万円で取引が成立した。1匹125グラム前後の最大サイズが、1箱に1キロ分ほど詰められているが、入荷が豊富なときは1キロ当たり500円前後なので、桁外れの高値だ。

 販売した豊洲市場の卸会社「中央魚類」の小松慎一郎さんは「漁師さんへの感謝の気持ちを込めた」と理由を明かす。入手した仲卸業者「山治」の山崎康弘社長も「市場を盛り上げたかった」と応じた。希少な超高級サンマは「鮮度が良く、刺し身がお薦め」(山崎社長)といい、米国への輸出や都内のすし店などで使われたという。

 サンマは例年、漁の解禁直後の7月中旬に北海道で初水揚げされるが、不漁の前触れか、今季は盆すぎまでずれ込んだ。豊洲市場に届いた初荷は約500キロで、昨年7月の初荷(1.1キロ)より大幅に増えたが、依然として少ない。旬のはずの9月に入っても低調なペースが続き、関係者からは「今年もダメか」とあきらめの声も漏れる。

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