「志村けんのギャグはマンネリ」と批判していた人に、本人がしていた納得の反論【メメント・モリな人たち】

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 その死が伝えられた時、まるで自分の身内が亡くなったような衝撃を受けた人が多かったのではないでしょうか。「東村山音頭」「早口言葉」「ヒゲダンス」「バカ殿様」「ひとみ婆さん」「変なおじさん」……多くのギャグとキャラクターを駆使し、テレビを通じて笑いを届けてくれたコメディアン・志村けん(1950~2020)。朝日新聞編集委員・小泉信一さんが、様々なジャンルで活躍した人たちの人生の幕引きを前に抱いた諦念、無常観を探る連載「メメント・モリな人たち」。志村さんが追求した笑いの神髄とは何だったのでしょうか。

「日本の喜劇王」衝撃の死

 股間から白鳥の首が突き出たコスチューム。「イッチョメ、イッチョメ、ワ~オ!」と叫ぶ姿が衝撃的だった「東村山音頭」。

 タキシード姿でヒゲをつけ、手のひらを下に向けながら両腕を上下に動かして踊る「ヒゲダンス」も懐かしい。

 日本中の人々から愛されたお笑い界の大スター、志村けん。ザ・ドリフターズの見習いとして「8時だョ!全員集合」に登場し、荒井注(1928~2000)に代わって正式加入したのは1974年である。

 当時、中学生だった私にとって、志村のドタバタな笑いは新鮮な驚きだった。とぼけた顔に、すっとんきょんな声。説明無用のばかばかしさは「下品」とも批判されたが、テレビの制作現場は自由で創造的で、あらゆるネタを笑いに変えてやろうというエネルギーに満ちあふれていた。

 その志村が新型コロナウイルスによる肺炎により70歳で亡くなったのは2020年3月29日である。40年以上、第一線で活躍してきた「日本の喜劇王」の死は、社会に大きな衝撃を与えた。

 死に至るまでの病状を時系列でたどる。

3月17日:倦怠感を覚え、自宅で静養する

19日:発熱や呼吸困難の症状を訴える

20日:東京都内の病院に緊急搬送。重度の肺炎との診断を受けて入院する

21日:人工呼吸器を装着。その段階で意識はなかったという

23日:新型コロナウイルスの陽性が判明

29日:午後11時10分死去。享年70

 各メディアが大々的に報じたのは30日だ。事務所関係者は「持病や基礎疾患があったとは確認していない。ただ、かなり喫煙と飲酒をしていたので、その影響があったことは否定できないかもしれない」と話したという(朝日新聞3月30日夕刊1面)。

 翌日になると、状況が少しずつ分かってくる。

 所属事務所によると、志村は愛煙家だったが、2016年に肺炎で入院したことがあり、以来、禁煙していた。喫煙が新型コロナウイルスによる肺炎の重症化にどの程度影響するのかはっきりしないものの、タバコによる体への悪影響は禁煙しても一定期間残ると考えられる。世界保健機関(WHO)は喫煙が重症化リスクを高めるとして、禁煙を呼びかけていた。

 コロナの場合は家族が見舞いに行けないことも大きな問題だった。厚労省によると「遺体は非透過性納体袋に収容、密封することが望ましい」とされた。

「顔を見られずに別れなくてはならなくてつらい」と悲痛な表情で語ったのは志村の兄。密封された遺体はそのまま火葬されたというが、人の命はそんなに軽いものなのだろうか。

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