絶対にだまされない「老人ホームの選び方」 見学するべき時間帯は? 何を基準にすればいい? プロが徹底解説

ドクター新潮 ライフ

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施設の評価は個人の好み、置かれた状況に左右される

 彼は明らかに施設の認知症患者の方がかわいそうだという文脈で、この例え話をしていました。ですが、本当にそうでしょうか。

 確かにこれが40代、50代の脂が乗りきった壮年期であれば「かわいそう」という指摘も当たっているかもしれません。しかし、80代や90代の認知症患者なら事情は違います。人生のゴール目前まで走り切った彼らにとって、イレギュラーのない管理された生活の方が快適だったとしても驚く人は少ないと思います。

「何歳になろうと、どんな状態になっていようと、他人に干渉されず自由に生きていきたい」。そう考えている人にとっては、老人ホームの個室は動物園の「檻」にしか見えないでしょう。しかし「全てやり切った。ボケた後くらい安寧な時間を過ごしたい」と考えている人にとって、老人ホームは極上のホテル生活のようになる可能性を秘めているのです。

 実は、老人ホームというのは一事が万事この調子。つまり、施設の評価は、個人の好みや置かれた状況に大きく左右されるのです。

親と子どもの利害は対立

 施設に入居する必要が生じたときに深く考えることなく施設を選んではいけないのは、そのためです。家を買うときも、借りるときにも、普通は事前に条件をしっかり調べ、入念な準備をしてから契約書にサインするはずです。その家に実際に住みもしない、離れて暮らす家族に丸投げすることなど、まずあり得ないのではないでしょうか。ところが、人生最後の数年を過ごす介護施設となった途端、みんなその“当たり前”を忘れてしまうのです。

 例えば、認知症になった親や配偶者を施設に入れる決断をするきっかけでよくあるのは、一人でトイレができなくなるなどの排泄障害です。このような場合、認知症はすでに中等度程度に進行していることが多いですから、コミュニケーションもスムーズにはいきません。私が見てきた限り、意思疎通ができるお年寄りを施設に入れる場合、家族は自分の生活圏の近くの施設を探すことが多い。今後の方針など、本人と相談すべきことがまだまだ残っているからでしょう。しかし、認知症でコミュニケーションが取れなくなったケースでは、自分の家の近くという条件すら外してしまうことが多々あります。これには、会話もできなくなった以上、頻繁に会いに行く必要もないという深層心理が働いているように思えてなりません。このような場合、施設のランクも、必要最低限の経費で済むところを探すことが多いようです。こうなれば、実態はいよいよ「うば捨て山」に近づきます。

 持ち家もある。預金口座にはそれなりの資産も残してある。ボケた後は子どもがよろしくやってくれるだろう――。そう思っている人もいるかもしれませんが、残念ながら老人ホームを巡る親と子どもの利害は往々にして対立します。お金をかければかけるほど親は快適になりますが、それに反比例して子どもは将来の相続分が減っていく。ましてや親が右も左も分からない認知症であれば、子どもが極力費用を抑えようとするのは当然です。

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