ジャニーズ性加害 再発防止特別チームが指摘した「マスメディアの沈黙」 “テレ朝の呪い”は解けたのか

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「大いに自省」と低姿勢だった「報ステ」大越健介キャスター

 テレビ朝日の夜ニュース「報道ステーション」(8月29日)では、ジャニーズ性加害再発防止特別チームの会見映像を中心に街の人たちの声に加え、(夕方ニュースでは日テレとTBSに出演していた性加害問題の被害者)橋田康さんのインタビューを取材したVTRを報道した。その後にスタジオで調査報告の内容をパネルでまとめて解説した。とりわけ「マスメディアの沈黙」については「ジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組に出演させることができなくなる危惧から、ジャニー氏の性加害報道を控えたと考えられる」という部分をアナウンサーが読み上げ、その言葉を噛みしめるように伝えた。

 この後で大越健介キャスターが次のようにコメントした。

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(大越健介キャスター)
 すぐれたタレントを送り出す一方で、絶対的な力を背景にジャニー前社長が暴走していった経緯がこの調査報告書では明らかになりました。
 そしてその背景の一つにテレビなど「マスメディアの沈黙」を指摘し、事務所が隠蔽体質を強めることにつながったとしています。
 私たち自身、長年、ジャニー前社長をめぐる風評を知りながら、「特殊な世界の出来事」だと注意をおろそかにしてきた面がなかったか、大いに自省しなければならないと考えています。被害者の痛みを心に刻みながら、今後の教訓としなければならないと思っています。
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 この夜の「報道ステーション」は反省に終始しながらこのジャニーズ問題を伝えていた。

抑えていたコメント力を発揮した「モーニングショー」玉川徹氏

 8月30日朝の「羽鳥慎一モーニングショー」。この日はメインキャスターの羽鳥慎一アナが休みだった。司会の代役としてテレビ朝日の野上慎平アナが担当した。ジャニーズ性加害の特別チームの会見などの映像を見せてからパネルで問題を整理。番組コメンテーターである玉川徹さんに話を振った。

 玉川氏が番組でジャニーズ事務所の性加害について話すのはこれが初めてだった。先日定年退職を迎えたばかりで報道の仕事では百戦錬磨の玉川氏は「メディアの沈黙」という指摘についてもコメントした。

 ジャニーズの性加害問題を原発問題と旧統一教会にたとえた。報道する側の人間が「わかっていた」のに「自分の仕事ではない」と考えて意識的に避けてきた“不作為”があったと話す。

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(玉川徹氏)
 メディアの責任を報告書でも指摘されているのですけど、こういう記述がありますね。「テレビ局を始めとするマスメディア側としてもジャニー氏の性加害を取り上げて報道するとジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組等に出演させたり、雑誌に掲載したりできなくなるのではないかといった危惧からジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えていた状況があったのではないかと考えられる」と。こういうふうな部分も「(実際に)あったんだろうな」と思います。僕も少なくとも週刊文春の裁判の後は事実認定されていることなので、それは知っているわけですよ。だけど、僕も含めてそれをやるのは「僕の仕事じゃない」と思っていたところがある。そういうふうに間接的に逃げていた部分というのがあるのかなと思います。僕は原発の事故の問題で、原発に危険性があるということを事故の前から多くのメディアの人間がわかっていたにもかかわらず、それを積極的に報道できなかった結果としてあんな(福島第一原発の)事故が起きてしまったという思いを強くもった。…にもかかわらず「この問題は自分の仕事ではない」と思っていた人も報道関係者の中に多かったのじゃないかなと思います。
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 自分たちテレビなど「マスメディア」の前に先鞭をつけてきた週刊誌やBBCらに敬意を払う発言もしていた。ジャニーズの性加害問題でテレビの人間がこれほど率直な言葉で週刊誌など他社の仕事を高く評価した珍しい出来事だった。

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(玉川徹氏)
 この後、ジャニーズ事務所が会見をするのだと思います。(中略)会見に出る僕ら側が(ジャニーズ事務所側に)石を投げる資格があるのかというのも同時に考えます。
その会見に多くの記者が出ると思いますけど、テレビも含めていろいろなメディアが…。でも、石を投げることができるのは、もしかしたら、週刊誌だったり、BBCだったり、フリーのジャーナリストとしてこの問題を追及しようとしてきた人だけかもしれないとも感じたりします。
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 テレビ朝日を代表する番組「羽鳥慎一モーニングショー」が初めてジャニーズ性加害問題を特集したことで、テレビ朝日をがんじがらめにしてきた呪縛がようやく解けたのかもしれない。だが「大下容子のワイド!スクランブル」に垣間見えたようにまだギクシャクした面は残る。それでも今後に予想されるジャニーズ事務所の記者会見などは他局のように忖度なく報道していくに違いない。

 問題はこの後である。「羽鳥慎一モーニングショー」や「報道ステーション」に代表されるように、テレビ朝日は「報道」が最大のウリの放送局だ。ところがジャニーズの性加害問題の報道ではこれまでほとんど独自取材がなく、週刊誌はおろかTBSや日テレ、NHKにも大きく後れを取っている。これから挽回できるのだろうか。挽回しようとする意欲はあるのだろうか。

 テレビ各局はジャニーズ性加害問題をきっかけに会社としての声明を改めてホームページなどに公表している。

 テレビ朝日も「テレビ朝日グループでは、従前より、人権尊重を明確に掲げて事業活動を行っておりますが、調査報告書に盛り込まれたマスメディアに対する指摘を重く受け止め、今後ともかかる取り組みを真摯に続けてまいります」とコメントした。

 子どもたちが被害者になっている性加害について、テレビ朝日は他局に追いつけるのか。あるいは“報道のテレ朝”らしい本気を見せてくれるのだろうか。それが連発できた時に初めて“テレ朝の呪い”が解けたことになるだろう。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部

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