処理水を巡る“日本叩き”はガス抜きのため? 習近平指導部の企みはどれも成功しない

国際 中国

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工事が中断されたままの建設現場が各地に

 東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に、中国が猛反発している。

 日本国内で中国から嫌がらせ電話などが相次ぐ一方、中国内の日本人学校や日本大使館に対する投石事件も起きている。中国政府は日本からの水産物の輸入を全面停止する決定を行ったが、中国のSNS上では「日本製品を買うな」との動きも広まっている。

 中国メディアも日本バッシングを強めており、中国専門家の間では「習近平指導部は経済不振に対する国民の不満をそらそうとしている」との指摘が出ている。

 足元の中国経済は満身創痍と言っても過言ではない。市況の悪化で不動産開発企業は資金不足に陥り、中国各地で工事が中断されたままの建設現場が目立つ状態となっている。

 中国の中間層はマイホームの夢を絶たれたばかりではない。金融資産の7割超を占める不動産価格が下落し、将来への備えも失いつつある。

 不動産不況のせいで大規模な取り付け騒ぎも起きている。8月18日、中融国際信託が運用する信託商品の一部が償還停止となり、10万人を超える投資家が支払いを求めて殺到する事態となっている。

 中国政府は株価対策にも躍起になっている。株式売却時に必要な証券取引印紙税の税率を半減する措置を8月28日から実施した。対策発表直後に株価は上昇したものの、その後失速してしまった。実体経済への不信感の強さが改めて証明された形だ。

不人気だった人民解放軍に若者が殺到

「中間層の怒りが自らに向かう」との恐怖を感じた習近平指導部にとって、「原発処理水の放出」は格好のスケープゴート(身代わりの生け贄)だったというわけだ。

 だが、筆者は「習近平指導部は安堵できる状況ではない」と考えている。経済不況の打撃を最も受けている若者への政府の対応があまりにもひどいからだ。

 中国政府は7月からの若者(16~24歳)の失業率を公表しなくなったが、6月の過去最悪の数字(21.3%)が改善されてはいないだろう。若者にとって「頼みの綱」だった配車サービス業は既に飽和状態となっている(8月17日付ロイター)。

 中国では古来「良い鉄は釘にならない。優秀な人は兵士にならない」と言われてきたが、背に腹は代えられなくなっている。最近まで「規律が厳しく命の危険も伴う」との理由で不人気だった軍に若者が殺到している。

 中国の報道によると、人民解放軍の各士官学校を志願する若者は年々増加しており、今年は13万5000人が高校卒業生だった。そのうち合格者は1万7000人で、ほかに大学卒業生の合格者は6000人と言われている。

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