東京五輪金メダルの金城・川井姉妹が世界選手権代表を逃す 2人が“涙の会見”で語った環境と心境の変化

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 9月にベオグラード(セルビア)で開かれるレスリングの世界選手権の非五輪階級の代表決定プレーオフ(男女計10階級)が、7月17日、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)で行われた。東京五輪金メダリストの金城梨紗子(28=サントリービバレッジソリューション)と川井友香子(25=同前)姉妹は、ともに敗れて代表を逃した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

互いの試合を見守る

 姉に見守られて女子65キロ級に出場した妹の川井は、尾崎野乃香(20=慶応大)と1回戦を戦った。序盤から猛攻をかける尾崎にバックを取られて2点を献上。第2ピリオドも片足へのタックルを決められて追加点を奪われる。その後もチャンスらしいチャンスもないまま0-4で敗北した。川井は昨年6月の全日本選抜選手権(明治杯)でも初対決した尾崎に敗れている。

 試合後、川井は「まだビデオとかを見ていないので、どこがどうだったとかはわからない。尾崎選手はとても強い選手ですが、ここに来る選手は世界を狙う強い選手ばかりなので、特に彼女だけを意識しているわけではなかった」などと暗い表情で答えた。

 その後、姉の金城が女子59キロ級に登場した。初戦の相手は至学館大学の後輩の南條早映(24=東新住建)。先に敗れた妹がセコンドで声をかける。この日の金城の動きは6月の明治杯とは見違えるように軽やかで、ポンポンと点を取ってゆく。

「動いたら(相手の)足があった」と振り返ったように、第1ピリオドでは金城が早々に足を取ってからバックに回って2点を先制した。第2ピリオドではポイントを重ねて、一時は6-0とした。南條が2点を取り返すが、金城はタックルも軽くかわしていた。だが、残り1分で2点を返され6-4と迫られる。金城が持ちこたえるかと思ったが、残り10秒を切ってから南條が猛攻。残り1秒で「イチかバチか」の首投げをかけると、金城は巻き込まれて場外際に転がされて裏返った。

 土壇場で2点が入り、南條が6-6で追いつく。金城サイドが「タイムオーバーでは」とビデオ判定を求めるも覆らず。レスリングは同点の場合、ラストポイントを取って追いついたほうが勝ちになるため、南條の勝利となった。

 茫然自失でマットに仰向けになっていた金城だが、気を取り直したように挨拶した。マットを降りると、妹が目を真っ赤にして待っていた。

涙の会見

 今回の敗北がパリ五輪の出場権に影響するわけではない。五輪での階級は、金城が57キロ級、川井が東京五輪よりも階級を上げて挑んでいる68キロ級だ。

 しかし、2人とも既に、自力での五輪出場の可能性は消えている。世界選手権に出場した選手が3位以内に入れなかった時、年末の全日本選手権(天皇杯)に優勝すれば、プレーオフの可能性があるだけだ。

 金城は「(代表になった選手が)負けたらわずかなチャンスはあるのかもしれないけど、負けて欲しいとは思わない」と話す。

 6月の明治杯で敗退した際、2人は比較的さばさばしており、悔しさをあまり見せなかった。金城は「出産後でも自分はよくやっていると思う。ママさんアスリートの励みになれば」などと話していた。川井は「出なきゃ後悔すると思った。出てよかった」とさっぱりした様子。今回のプレーオフについても、当時は「一応、登録はしようかと」(金城)などと話す程度だった。

 ところが、この日の2人は違った。会見場に現れた時から泣き腫らしていた。甘く見ていたわけではないだろうが、世界選手権にも出られなくなり、改めて衝撃が襲ったようだ。

 金城は「明治杯の時は、結婚して子供を産んでいるのに自分は頑張っているなと思っていた。でも、そんなことが甘かったのかな」と話した。川井は「今回のプレーオフは出るか本当に3日前まで悩んでいて、出たくないと思った時もあった」と涙顔で明かした。

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