優秀な脚本家や俳優の「Netflix流出」が止まらない 生ぬるいテレビ界はどうなる?

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 速報やネットニュースで思わず「えっ!?」と声をあげてしまうことが、年に何度かある。先日「脚本家の坂元裕二がNetflixと5年契約」という速報を観て、叫んだばかりだ。悲報といえば悲報だが、今まで無料で観られていたことが幸せすぎた、致し方なし、とも思った。大石静と宮藤官九郎がタッグを組んだ「離婚しようよ」も昨年の発表以降、楽しみにしていた。小泉進次郎的なからっぽ3世議員を松坂桃李が、その妻で国民的女優を仲里依紗が演じる。これもNetflix。テレビドラマ界の重鎮や宝が次々とNetflixへ。そして、東京電力福島第一原子力発電所事故を描いた「THE DAYS」もNetflix。主演・役所広司を始め、名優たちがこぞって出演している超大作だ。

 ここ数年で猛威を振るうNetflix。シリアスもコメディーもスポ根も恋愛モノも、良質な作品を制作。テレビの視聴率というふわっと適当なうさんくさい数字とは異なり、契約者数と再生回数が如実にたたきつけられる配信系は、良質なコンテンツでなければ、そっぽ向かれて終わり。ある意味、視聴率取れなくてもジャニーズ事務所依存と夢グループCM頼みで成り立つようなテレビのほうが生ぬるい。

 もちろん、ジャニーズ事務所のタレントはみんな器用で、芸達者が増えた。バラエティー番組なんかほぼほぼジャニーズ。俳句も詠めれば絵もうまい。歌がうまい人もいれば、ナチュラルボーンコメディアンみたいな人もいる。でも、メインどころがジャニーズのドラマ、増えすぎじゃね? 「この役は安田顕がやるべきでしょ」とか「脳内で町田啓太に変換するしかないな」とか「賀来賢人だったらもっと深みが出たのに」とか「ここは仲野太賀一択でしょ」と思うドラマが多すぎて。キャスティングで忖度しすぎ、辟易を通り越して諦観の境地だ。日テレは全身全霊でズブズブだが、テレ朝も「特捜9」や「刑事7人」は完全にジャニーズに乗っ取られたわけで。「特捜9」は山田裕貴の卒業&津田寛治が羽田美智子と劇中で結婚してから、ほぼ観なくなった。「刑事7人」に至ってはこのご時世に全員男。設定もキャストも東山紀之シフトで無駄に変化。この前久々に観たら、元義父で解剖医の北大路欣也がヒガシのことを「悠(you)」と呼んでいて驚いた。響きで連想するよね。「そこはいいの? あれだけ被害者がいる大問題なのに」と。あら、悪口は改行すら忘れて筆が進む進む。生まれながらに品性下劣でよかった。これ、民放地上波だけじゃない、NHK総合もWOWOWも同じ穴のむじなな。

 ま、結論としてはNetflixが本気でアクセルを踏んで、あおり気味でテレビ局を追い越したという話。30~40代の脂ののった俳優が活躍する場をテレビ局から配信系に移しているのは事実。テレビの駄作に出るくらいならNetflixへ、というのはわからんでもない。脚本家も監督もプロデューサーですらも、予算にも表現にもキャスティングにも自由のない、沈みゆく泥舟からこぞって逃げるのも、わからんでもない。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年7月20日号掲載

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