天皇陛下「英国留学」の原点 水面下で米英がせめぎ合った「家庭教師プロジェクト」

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 天皇陛下がご著書に「何ものにも代えがたい貴重な経験となった」と綴られた、若き日の英国留学――。その背後に見え隠れするのは英国の深遠な外交だった。実は、上皇陛下の“家庭教師”をめぐっても、水面下で米英のせめぎ合いが展開されていた。(前後編のうち「後編」)<『英国機密ファイルの昭和天皇』(新潮社)より抜粋、一部加筆しています>【徳本栄一郎/ジャーナリスト】

サッチャー首相、エリザベス女王とも交流

「思い返してみると、この二年間は瞬く間に過ぎ去ったように感じるものの、私はその間実に様々なものを学んだように思う」

「英国の内側から英国を眺め、様々な人と会い、その交流を通じて英国社会の多くの側面を学ぶことができたこと、さらには日本の外にあって日本を見つめ直すことができたこと、このようなことが私にとって何ものにも代えがたい貴重な経験となった」

 今上天皇の英国留学の回顧録、『テムズとともに――英国の二年間』は、これらの言葉で終わる。

 1983年、学習院大学を卒業した浩宮(今上天皇)は、英国オックスフォード大学の留学に出発した。まず、トム・ホール大佐宅にホームステイし、一般学生と寮生活をする。これほど長期間、皇族が海外に出るのは異例で、その間、英国政府は、完璧とも言える体制で支援した。

 私服の警護官が、目立たぬよう付き添い、一般学生と同じ生活ができるようにした。また、マーガレット・サッチャー首相やエリザベス女王とも交流するなど、浩宮にとって青春の忘れられない記憶になった。

 前回触れたように、この背後には、明治から脈々と続く、英国の深遠な外交があった。終戦直後の皇太子の家庭教師プロジェクトも、その一つである。

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